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レイシィ・ウィオラの狂気

エーゼルが里の方へと向かった後、ボコリと地面に穴が空き、その穴から迫り出すようにレイシィは姿を現した。


土煙が晴れていない中のど真ん中に出たので視界は最悪だ。


「ハァ……ハァ……危なかったね」


レイシィが最後の矢を受けて即死しなかったのは運が良かったとしか言い様が無かった。


重圧の風による加速を受けていたとはいえ、感知され難くする為に矢自体には貫通等の強化が施されていなかった。


それに加えて穿孔の矢に砕かれた魔力障壁の欠片が偶然当たって威力を削ぎ落としていた故にギリギリで矢先が心臓まで達しなかったのだ。


本当に奇跡的としか言い様が無い幸運であった。


重傷を負っていたレイシィは走る体力など無く、その場に穴を掘ってその中に隠れていた。


時間を掛ければエーゼルは確実にレイシィを発見できたであろうが、里の状況がそれどころではなかったので諦めざるを得なかったのだ。


立つことすらままならないレイシィは膝を着いていた。


地面に座り込んだまま、『念動』を使って腰に下げた道具袋から3本のビンを取り出す。


両手を失っているレイシィには魔力を用いて物質を動かす『念動』スキルが必須だった故に今となっては両手があった頃より便利に使いこなせるようになっていた。


1つは外傷用ポーション、1つは造血剤、残りの1つは強酸。


「先ずは、血を止めないと……」


強酸のビンの蓋を開けて、服の裾を口元まで移動させてしっかりと咥える。


そして、強酸を肘と脇腹に空いた穴へと振り掛けた。


『ジュウ』と強酸が肉を焼く音が響く。


「ッッッッ……!!!!」


全身を震わせる程の激痛がレイシィを襲うが、服の裾を噛み締めて声が出ない程の痛みに必死に耐える。


火傷によって出血を止めた後、水の魔術を行使してしっかりと強酸を洗い流す。


息を荒げながらも造血剤を呷る。


(取り敢えず、これで急場は凌げたね)


しばらくの間、レイシィは血の量が回復するまでじっとしていたが、それが終わると鎖骨付近に刺さった矢を『念動』で一気に引き抜いてすかさずポーションを飲み乾した。


エルフの扱う矢は木製で先端は錐状に尖らせているだけで金属の鏃など着いていないものであり、返しもないので引き抜くのは比較的容易であった。


ポーションの効果で胸の矢傷は殆ど塞がったが、肘と脇腹の大き目の孔はそのままだ。


中級の回復ポーションでは多少の外傷は治せても、欠損までは修復できないから当然であった。


穿孔の矢は貫通の矢と違い、円錐状の回転する魔力が矢の周囲1cmぐらいの範囲を抉り取ってしまうために受ければ欠損となってしまうのだ。


命に関わる外傷を何とか塞いだレイシィはドサリと背中から地面に倒れて仰向けになる。


「アハハ……あれだけ私に有利な状況で完膚無きまでに返り討ちに遭うとは思わなかった。凄いなぁ、エーゼル」


それはレイシィの素直な感想であった。


術士が魔力切れの無い状態で、更に言えば相手よりもかなりレベルが高いにも関わらず完敗したのだ。


レイシィはその事実を素直に称賛していた。


「前からエーゼルの事は好きだったけど、これは惚れ直しちゃったかな」


エーゼルがレイシィに恋心を抱いていたように、レイシィもまたエーゼルに恋していた。


レイシィが里に居た頃は、エーゼルの立場もあり迷惑にしかならない事を幼いながらも知っていたので胸に秘めていた。


話が出来るだけで幸せなんだと、小さな幸せを噛み締めていた。


再会したエーゼルは大きくなっていて素敵だった。


そして、相変わらず真っ直ぐで眩しかった。


「ああ……エーゼル、やっぱり君は最高だよ!滅茶苦茶にしたいしされたい!」


エーゼルから放たれた矢には沈痛なまでの悲哀が込められていた。


それを身に受けて肌で感じたレイシィは歓喜した。


自身をそんな風に真剣に思ってくれるのはエーゼル以外にはいないと知っているから尚更。


激痛でさえ心地良く感じてしまい、思わず下着を濡らしてしまっていた程であった。


「うん。エーゼルを縛り付ける里は滅ぼさないといけないね。彼はあんな所にはいてはいけないもの。当然、彼を必死に狙うであろうカルディアの連中も滅ぼさないと」


エーゼルが想像以上の活躍をした為に、エルフと騎士の両方を滅ぼしてエーゼルを連れ出すという事も出来そうだとレイシィはほくそ笑む。


エーゼルの行動で騎士達の行動が早まっている為に、海から来る予定の捕獲の為の本隊はまだまだ来ない。


であれば、今居る連中を殺し尽くせば自身とエーゼルの足取りを掴める者はいなくなる。


「……エーゼルもお父さんの真実を知れば、あの里に守る価値なんて無いって分かってくれるかもしれない」


果てしなく暗い光の無い眼でポツリと漏らす。


「真っ直ぐで眩しいエーゼルにあんな汚らわしい場所は相応しくない。だから、私が里を滅ぼして君を縛る鎖から解き放って自由にしてあげるよ」


エーゼルと対峙して目的を変更したレイシィはニタリと狂気をはらむ笑みを浮かべた。


書いてて何だけどヤンデレ怖い

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