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それぞれの戦い(エーゼル) 31

鎖骨の近くに深々と突き刺さった矢も、横腹と左肘に空いた穴もどれ一つとして決して軽傷ではない。


だが、それでもレイシィは倒れなかった。


「これは……見事に、してやられたみたい。だけど……ただじゃ、終わらないよ」


出血により顔色悪くしていたが、レイシィは顔を上げて途切れ途切れに言う。


「何を……」


その言葉に不穏な気配を感じたエーゼルはそれが何か聞き出そうとするのだが……


ドォンッ!!


里の方で大きな爆発音がした。


「!?」


里の方を向くと土煙が上がっているのが見えた。


「ゴーレムを……固めたのは失策だったね。あれにだって……私の魔力は宿っているんだよ。最後に自爆ぐらいは……させられる」


「なッ……!?」


(しまった!何故、ここにレイシィが居たのか忘れていた!里はレイシィの精霊術の範囲内だ!)


思わず舌打ちしてしまうがもう遅い。


再びレイシィの方を振り返った時にはその姿が消えていた。


更に言えば、土属性の魔術で巻き起こしたであろう大量の土煙が舞っていた。


『悪いけど、ここは、一度退かせて貰うよ。私には、まだやる事がある』


「レイシィ、あなたがそこまでする程に我らを恨んでいたのか?」


あれだけの重傷を負いながらもゴーレムを自爆させるなど並の執念ではない。


それは嫌でも理解できるというものである。


(どこだ?どこに居る?)


問いかけながらもエーゼルは必死に探知を巡らせる。


『君だけは……例外だけどね。私は、私をこんなにした森人(エルフ)普人(にんげん)も嫌い。カルディアの連中が、返り討ちに遭おうと……エルフが、全員囚われようと……私はどちらでも構わないんだ』


声だけが不気味に響くが、音源が掴めない。


間違い無く術で位置を誤魔化している。


『だから、両方の被害が、最も大きくなるようにする為に……自ら情報を流して、協力者を名乗り出た』


「……そうか」


レイシィは精神、肉体両面で壊れていた。


もうそれは今更どうにもならないとエーゼルには分かってしまった。


『エーゼル……君は、ここでゆっくりとしていて、良いのかな?カルディアの連中が……里に殺到するのは、もう目前だよ?』


言われずとも分かっている事であった。


「クソ!!」


術士としての力量が圧倒的に上の相手にエーゼルの探知が通用する訳も無く、エーゼルは毒づきながら里の方へと駆け出す。


ここでレイシィの捜索をしている間に、里自体が陥落してしまう。


それが里に残していた風の精霊から伝えられる情報で分かったからだ。


『……エルフと人間に呪いあれ』


去りゆく背中に語り掛けられたその言葉にはエーゼルの背筋がゾクリと震わせるものがあった。


(あれだけやって仕留めきれなかったのは痛いな……)


取り敢えず、重傷を負わせて一度撃退はしたものの……


レイシィを取り逃がしてしまったのが痛過ぎた。


何をしてくるか分からない術士は脅威だ。


それにレイシィは既に壊れている。


自らの命など顧みない目的の為に行動する死兵だ。


そんな相手を追い詰めておきながら仕留められなかったのだ。


狩りにおいても手負いの獣程危険な者はない。


それが明確な復讐の意思のある相手であれば尚更だ。


そんな手痛いにも程がある失態を犯してしまったエーゼルは、苦い気持ちでいっぱいであった。


(レイシィは必ず出て来る。その時は今度こそ確実に仕留めよう。彼女の手をこれ以上穢させない為にも)


かつての優しいレイシィを知っているエーゼルとしては、今のレイシィは色々な意味で哀し過ぎた。


レイシィの友として悲痛な決意を固めていた。


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