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それぞれの戦い(エーゼル) 28

(里の方もそうだが、我の方の時間に余裕は無さそうだ。チャンスは一度きり、賭けに出るしかないか)


性格的にエーゼルは賭けというモノが嫌いだ。


入念に準備して確実を期す。


それが狩人として戦う術を磨いたエーゼルの基本だ。


シュパン!


泥の触手が伸びてエーゼルに向けて振るわれ、跳躍して回避するがまた1つ足場が切り落とされる。


(レイシィは攻防両面に優れた厄介な術を開発したものだ)


切り落とされた枝の断面は恐ろしい程に滑らかだった。


高速で流動する高圧の水と細かい土の粒子が樹を削り取った結果だ。


原理としては完全にウォータージェットに研磨剤を混入させて切断能力を向上させたアブレシブジェットと同じである。


(あの威力……我の手持ちの術では防げないな)


その火力差は純粋な術特化型とバランス型の差だ。


それが如実に出ていた。


(同時にそれは完全に防御に回られたら我の手持ちの術や技の火力では突破できないという事でもある)


攻撃を回避しながらエーゼルは分析を進めていた。


(だが、それは飽くまでも単発の威力での話だ。一撃で抜けないのであれば火力を集中させて撃ち抜くまで。攻防一体というのは強みではあるが、同時に弱点でもある。それを突く)


シュッ!


エーゼルが思考を巡らせている間に2本目の泥の触手がレイシィの前の泥の塊から伸びる。


それはエーゼルに向かうと思われたが違った。


シュパン!


2本目の泥の触手はエーゼルが飛び移ろうとしていた先の枝を切り落とした。


向かう先の足場が失われて、エーゼルは地面まで自由落下するしかない状況。


そして、周到な事にその先には既に泥沼が展開されていた。


「チッ!」


舌打ち一つ挟みながら、エーゼルは投げナイフを飛ばす。


レイシィにでは無い。


レイシィに投げた所で防がれるのがオチである。


投げナイフはエーゼルが飛び移ろうとしていた樹の幹の上の方に深々と突き刺さる。


投げナイフの柄尻にはエーゼルの魔力の糸が伸びていた。


魔力の糸がピンと張られて、自由落下から振り子運動に切り替わり、エーゼルは地面に対して垂直に伸びる樹の幹に両足を着ける。


エーゼルは足に魔力を集めて、木の幹に張り付く。


樹の幹に対して垂直にエーゼルは立ち、地面と体を平行にさせながら弓を引いて矢を射る。


牽制射撃だ。


「これはチマチマやっていても埒が明かないか」


エーゼルの矢を防ぎつつレイシィが呟く。


「一気に仕留めるとしよう」


ブワッ……!


レイシィの全身から一気に魔力が噴出する。


「泥よ、全てを飲み込み、底無き暗闇へと誘い押し潰せ。『深淵なる泥濘』」


レイシィを中心とする半径100m以内の高範囲に渡って、森の地面が泥沼へと変貌し、マングローブのような様相と化する。


そして、『ズズズ』と秒速1cm程のゆっくりとした速さで泥沼となった地面の上に立つ木々が沈んでいく。


更にレイシィの前の泥の塊が伸びて、細長い一本の棒状と化す。


その泥の棒はぐるりと1回転して、泥沼と化した範囲内の木々の根元近くを薙ぎ払う。


周囲の木々を薙ぎ払われたエーゼルは跳躍していた。


(魔力に際限がないからって無茶苦茶やってくれる!だが、これは絶好の好機だ。逃がす訳にはいかん!)


左右に向けて4本、4本と大きな弧を描く軌道で連射。


更に正面から4本、3本と更に連射。


それら全てがレイシィへと向けて放たれた。


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