それぞれの戦い(エーゼル) 27
(純粋なレベルは恐らく向こうの方が上、そう思って当たるべきだ)
基本的にエルフという種族は拠点から離れようとしない極度の引き籠もり種族だ。
必要が無ければ外に出ようともしない。
エーゼルは本人が責任感強い上に仕事中毒的な部分がある。
何もせずにジッとしている方に苦痛を感じるエルフには珍しいタイプなので外回りには毎日行くし、狩りついでに周辺の魔物の間引きもする。
勿論、時折ミラフィアの様子を見に行くことも忘れない。
そんな感じなので年齢の割に里のエルフの中でも高レベルだったりする。
だが、それでも里周辺で出る魔物の強さ的にレベルアップの限度というものがある程度存在する上、ハイエルフは他の種族と比較してレベルアップに必要とされる経験値(EXP)が多い種族だったりする。
そんな感じなので強さの割に純粋なレベルはそこまで高くなかったりする。
(先ずは『術式遅延』で溜め込んだ術を全て吐き出させる)
エーゼルは冷静であった。
時間が無い状況でもしっかりと落ち付いて、対術士戦においての正しい対応を行っていた。
むやみに接近するのは悪手。
術士の怖い所は何が待ち構えているか分からない点にある。
特に『術式遅延』でいつでも何かしらの術をノータイムで発動可能状態になっている術士を相手にする時は。
バシュッ!!
樹上から矢を2本連続で放つ。
先に放った矢には炸裂、後に放った矢には貫通の強化を施してある。
先に炸裂の矢で泥の壁の表層を吹き飛ばし、後の貫通の矢で深層の固い部分を撃ち抜く算段だ。
レイシィは矢にどのような強化が施されたか理解しているようで、泥の壁を薄っぺらい平板から立方体へと変形させて厚みを増して、放たれた矢を受ける。
厚みが増したことで防御力を増した泥の箱はエーゼルの矢を難なく受け止めて飲み込んだ。
それを目の当たりにしたエーゼルは想定内といった面持ちだ。
(やはりあの程度ではレイシィの防御壁を抜けないか)
先程の攻撃はテストだ。
相手の性能が分からなければ勝負を仕掛けるのも難しい。
レイシィが泥の壁を変形させている間にもエーゼルは次の矢を放っていた。
その数6本。
それぞれ左右から3本ずつ。
曲線を描いて、泥の壁を避ける軌道だ。
ビッ!
四角い箱型の泥から6本細い泥の触手が素早く伸びて、矢の先端を弾いて軌道を逸らす。
それを見ていたエーゼルは触手を伸ばした分、箱型の泥の厚みが薄くなっているのが確認できた。
(操れる泥の体積は限りがあるようだな)
矢を弾き飛ばしたレイシィが今度は攻勢に出た。
ビュッ!
泥の箱から矢を弾いて見せた泥の触手が1本、エーゼルに向けて真っ直ぐ伸びる。
タンッ!
当然ながらエーゼルはその場から跳躍することで回避して隣の木の枝に飛び移る。
そして、その泥の触手は先程までエーゼルが立っていた樹の太い枝をスッパリと切り落とし、再びエーゼルへと向けて放たれる。
(チッ……!これは良くないな)
エーゼルはレイシィの行動の意図を読み取り内心で舌打ちする。
(我から足場を奪う算段か!)
泥の触手は正確に言えばエーゼルに向けて放たれたものではない。
最初からエーゼルの立つ足場である樹の枝に向けて放たれたものであった。
足場が無くなれば、エーゼルが地面に降り立たなければならなくなるのは必然。
そうなれば有利に立つのはレイシィだ。
エーゼルの優位性は身体能力。
主に機動力によるものが大きい。
だが、レイシィの操る泥の魔術はその機動力を奪う事が容易なのだ。




