それぞれの戦い(エーゼル) 26
「レイシィが生きていた事は嬉しい。だが、それを素直に喜べないこの状況がとても哀しい」
「そうだね。私もそう思うよ。ねえ、エーゼル。退いてくれないかな?私は君1人に対してだけは酷い目に遭って欲しくないとそう思ってるんだ」
「我を恨んではいないのか?」
レイシィが追放されたのはエーゼルが原因だ。
恨まれて当然とエーゼルは思っていた。
「エーゼルを恨む?そんな事を思った事は一度だって無いよ。だって、君は私にとって唯一の友達だからね」
「そうか……」
「で、どうだい?今の状況であれば君一人なら十分逃げられる」
「我に里を見捨てて逃げ出せと?悪いがそれは出来ない。我は次期里長として里を守る責務がある」
「『次期里長』ね。君にとっても悪い話じゃないと思うんだ。里が無くなれば、君は生まれによって押し付けられたやりたくもない役目から解放される。それに里の連中は君がそこまでして守るだけ価値がある相手なの?」
「…………………………」
エーゼルにとってその役目は自ら進んで望んだものではないのは確かだった。
そして、里の多くの者が『守るだけの価値があるのか?』と問われれば顔を顰めざるを得ない相手だと言うのも重々理解している故の沈黙だった。
長老派の連中に至っては『死んでしまえばいいのに』とエーゼルが思ってしまう程に醜悪の権化と言えた。
「だが、それでも全員がそうという訳でも無いのだ。僅かでも我が守りたいと思える相手が居るのであれば我はその為に力を尽くす」
門番の青年や、狩猟部、警備部のベテラン勢などエーゼルにはミラフィアの他にも死んで欲しくない者達が少なからず居た。
「そっか。じゃあ、力尽くで行くしかないね」
「ああ。悪いがこちらには時間が無い。再会をゆっくりと喜んでもいられない」
今も里の方では迫り来る騎士達の迎撃が行われている。
猶予など微塵も無い。
「エーゼルが私と同じような目に遭うのは忍びないから一思いに殺してあげる。大丈夫、なるべく苦痛を感じない様にすると約束する。本当に残念だよ、エーゼル」
「我も同じ気持ちだ。非常に残念に思う。友として我の手であなたを苦しみから解放しよう」
エーゼルは言い放つと同時に地面を蹴った。
先程までエーゼルが立っていた場所の地面が一瞬で泥沼と化していた。
(やはり、会話中に密かに詠唱を終わらせて発動を遅延させていたか)
予想はしていた。
レイシィはエーゼルのようなバランス型ではなく術特化型のエルフだ。
ハイエルフのバランス型であるエーゼルと正面から対峙するならば当然の選択と言えた。
先程までの会話は説得であると同時にエーゼルと対峙した場合の為の準備時間でもあった。
優れた術士であれば『無音詠唱』や『術式遅延』といったスキルを有している。
空中でエーゼルは弓を引き絞り、矢に破裂の魔力を込めて3本同時に放つ。
そして、エルフの身軽さを発揮して樹上へと着地する。
レイシィは人間の血を引く故にエルフでは発現し難い土属性の適性を有していた。
土属性の適性持ちの術士を相手にするのに地面の上で戦うのは常に武器を向けられているのと同義だ。
レイシィは向かって来る矢に対して、目の前に泥の壁を出現させる。
矢は泥の壁に当たると魔力による衝撃が撒き散らされるが、それはエーゼル側の泥だけが弾け飛ぶという結果になった。
水に土を混ぜ込んで泥とすることで質量と粘性を引き上げて衝撃吸収性を高めると同時にエーゼル側から見て奥に行けば行く程に圧力が高まるように作られた泥の密度が変化する壁は、内側の衝撃を弾き、外側へと逃がすという結果をもたらした。
(破裂では効果が薄いか。それに聖樹を活性化させたのが裏目に出てしまっているな)
里から追放されてしまったとはいえ、レイシィは紛れもなくこの里出身のエルフの血を引き継ぐ者だ。
当然、聖樹の恩恵を受けている訳で、現状ではエーゼルが聖樹に蓄えた魔力によって魔力切れの心配がほぼ無い状態だ。
それはエーゼルも同じなのだが、術特化型とバランス型ではその恩恵の意味合いが大きく変わって来る。
術士は常に自身の魔力管理に意識を割り振って戦う事となるのだが、それが必要無いとなればハイエルフとハーフエルフという種族的なスペック差を埋めかねないものとなってしまっていた。




