エーゼルとレイシィ
エーゼルがレイシィと出会ったのは彼が4歳の時だった。
里で唯一のハイエルフとして生まれたエーゼルは何かと強いられる事が多く、それに嫌気が差して抜け出した時だ。
幼いながらもハイエルフとしてハイスペックな能力を有していたエーゼルは里を出て森に入って行ったのだ。
森の中でエーゼルは小鳥や栗鼠といった小動物と戯れるレイシィと出会った。
初めはエルフ達から疎まれ続けた結果、レイシィは幼いエーゼルに対しても怯えた様子を見せていたのだが……
幼いエーゼルは他のエルフ達と違って何も知らない故にレイシィに対して全く嫌悪感を示さなかった。
レイシィがその事に気付くと自然と一緒に遊ぶ間柄になっていた。
立場は違えど、里の中で孤立した者同士馬が合ったのだ。
その肌の色からダークエルフと間違われるのだが、レイシィ・ウィオラはハーフエルフである。
両親はれっきとしたエルフなのだが、どちらかの祖先にハーフエルフが居たのだろう。
隔世遺伝によって普人の血が濃く発現した結果生まれた特殊なハーフエルフであった。
引いていた血統が黒人系の普人だった為にダークエルフのような外見になってしまったというだけだ。
レイシィと出会ってからエーゼルは度々里を抜け出して、レイシィに会いに行くようになった。
レイシィはエーゼルが自らの産まれを知ったらと思うと人と触れ合える暖かさを感じる度に不安を膨らませていた。
1年が過ぎて、不安を隠せなかったレイシィは『自分の産まれについて知っているの?』とエーゼルに直接訊ねた。
エーゼルは素直に『知ってる』と頷いた。
『じゃあ、何で私と会ってくれるの?』
そうレイシィが聞けば、
『皆はハーフエルフの事を悪く言ってるけど、ハーフエルフの何が悪いのか分からない。肌の色が違ってもハーフエルフでもレイシィはレイシィじゃないか。父さんは『種族や所属ではなくて人そのものを見ないと大事な事は分からない』って言ってた。レイシィは絶対に悪くない。会いたいから勝手に会いに来ているんだ』
真っ直ぐなその言葉を聞いて、レイシィは泣いた。
見た目や産まれから疎まれ続けてきた彼女には涙が止まらなくなる程に暖かくて嬉しい言葉だったからだ。
レイシィにとっては嫌われるのが当たり前という環境だった。
それは両親ですら例外ではなかった。
幼いながらもエーゼルはしっかりとした自己を持っている少年で、周りに流される事は無かった。
エーゼルの性格に関しては父親が人格者であった事が大きかったのだろう。
一番身近で一番尊敬できる存在が父親だったのだ。
エーゼルが年上だけどいつも怯えていて守ってあげたくなる心優しい少女であったレイシィに恋心を抱くようになるのにはそう時間が掛かる事では無かった。
出会いから3年が過ぎて、エーゼルが自らの恋心を自覚するようになった頃……
エーゼルがいつものように里を抜け出して森の中でレイシィと会いに行った時、レイシィが魔物の集団に襲われていた現場に遭遇した。
魔物を撃退は出来たのだが、レイシィを庇った結果、エーゼルは小さくない怪我を背中に負った。
その傷跡は今もエーゼルの背に刻まれている。
だが、問題はそれが原因でエーゼルとレイシィの逢瀬が明らかになってしまった点と『レイシィのせいでハイエルフであるエーゼルが大怪我を負った』という事になってしまった点であった。
その責任を負わされたレイシィは元々疎まれていた事もあり、里を追放される事となった。
エーゼルは当然『レイシィは悪くない』、『怪我は自らの油断が招いた結果だ』と必死に訴えたのだが、結論は変わらなかった。
レイシィが追放された翌日。
森の中でおびただしい血の跡とレイシィのものと思われる褐色の肌をした左手だけが発見された。
現場の状況から、レイシィは魔物に食い殺されたのだろうと判断された。
仮に生きていたとしても現場に残されていた血の量から長くは持たないだろうから死亡したものと判断された。
そのことをエーゼルは今も深い後悔を抱えていた。
『自身が関わったせいでレイシィは里から追放されて、結果的に死なせてしまった』と。
それはエーゼルに対し、体以上に心に大きな傷跡を残す事になった。




