それぞれの戦い(エーゼル) 25
森の中で火を放つのは危険ではあるのだが、里の周囲の木は生木だから簡単には燃えない。
油を霧状にしていたので燃えるのはほぼ一瞬だ。
一瞬で空間ごと火に包まれてパッと消える。
「そこだ!」
その無差別な範囲攻撃によって、術士は防御せざるを得なかった。
火の影響を逃れる為に張られた薄い水が球状になっているのが外壁の近くに見えた。
精霊術の効果範囲の関係でギリギリまで接近していた為にエーゼルが何をやっているか分かった段階では既に逃げられなかったのだろう。
エーゼルはその水球に向けて破裂の強化を施した矢を2本立て続けに放つ。
ドパンッ!!
1本目の矢が水の障壁を吹き飛ばし、2本目の矢が破裂して衝撃を撒き散らすと水球の中から人影が後方に吹き飛びながら現れた。
直前で障壁の展開が間に合ったようで大きな怪我は負っていないのか、クルリと回って早々に立ち上がる。
「なッ……!?」
その姿を見て、エーゼルは驚愕を隠せなかった。
姿を炙り出した敵の術者……
背丈は170cm前後、全身の肌の色は褐色、全体的に細身なのだが胸と尻が大きく膨らんでおり実に肉感的と言えた。
光の加減によって薄紫色に見える銀髪、紫水晶のような美しい深い紫色の瞳、エルフの血を引く事を示唆する長い耳それだけなら美しいと言えただろう。
だが、その術者は右腕が肩から先が無く、左腕も肘から先が無かった。
顔には野獣に引き裂かれたであろう頬に穴を空けている大きな爪痕と顔半分を覆う大きな火傷跡が存在しており痛々しいと言わざるを得ない姿だった。
エーゼルが驚いたのはそこではない。
「そうか……あなただったのか……」
変わり果てた姿ではあったが、一目でエーゼルにはそれが誰なのか分かった。
いや、分かってしまった。
分からない筈が無かった。
敵の術者であった女性は、エーゼルにとって忘れられない相手だった。
何故なら、彼女はエーゼルにとって初恋の相手であったのだから。
自身が関わったせいで追放されてしまったという苦い思い出がズキズキと心の奥底で蘇り、エーゼルの心臓に締め付けられるような痛みが走る。
同時に納得もしてしまった。
何故、敵がこちらの防備にやけに詳しいのかと思っていたが、元々この里の住人であったのだ。
知っていて当然だ。
それに、仕掛ける予定のタイミングが重要な祭事と被っていたのも偶然ではないのだろうとすら思えた程に。
「レイシィ……」
エーゼルは思わず彼女の名を漏らす。
彼女の名はレイシィ・ウィオラと言った。
歳はエーゼルの婚約者であるペレサと同じで、エーゼルより5つ年上の18歳。
彼女が追放されてからの6年の間で色々と大きく変貌を遂げていた。
「や、エーゼル。久し振り。随分と大きくなった。君のお父さんにそっくりだ」
レイシィは昔と変わらない気安さだった。
レイシィもまた大きく変わったエーゼルの事を一目で分かっていた。
「君には悪いと思うけど、この里を滅ぼしに来た」
昔と変わらない気安さでありながら、その瞳には狂気が宿っていた。
「あなたには我らを恨む権利がある。……だが、我らも黙って滅ぼされる訳にはいかないのだ」
(殺されるのが我だけなら良い。我はそれだけの事を彼女にしてしまっている。だが、それでも我は里を守る役目を担っているのだ。それを放棄する事は出来ない)
エーゼルは口の端から血を流す程に強く噛み締めていた。
悔恨と責務、両方の重圧がその肩に重く圧し掛かっていた。
そんなエーゼルを見て、
「君は昔と変わらず真っ直ぐで眩しいね。眩し過ぎて消したくなるぐらいに」
とレイシィは言った。




