それぞれの戦い(エーゼル) 21
(今からでも仕掛けに行きたいが、まだだ。数が足りない。そして、何より切り札がまだ来ていない)
エルフという種族は力や耐久性に乏しい代わりに敏捷性と魔力に優れる。
しかも、聖樹の近い程に魔力回復力が上がるというオマケ付き。
里に立て籠っている状態ではその回復力は最大限に上がる。
つまり、バカバカと魔術が飛んでくる。
それが分かっていて無謀な特攻をするアホはいない。
彼らの待つ『切り札』はエルフの術対策を持つ者の事だ。
『来た』
不意にどこからか女の声が響く。
姿は見えない。
「遅いぞ!どこで油を売っていた!?」
『あのオークから狙われないように大きく迂回していた。それとはぐれて迷いそうになっていた連中を全員誘導してきたというのに……何という言い草』
「本当か!?」
それは正に嬉しい報せであった。
『勿論。戦力が足りなくて攻め込めないではこちらも困る』
(言い分は腹立たしいものだが、貴重な協力者だ。役目を果たすまでは機嫌を損ねられても面倒だ)
内心ではそんなことを思い、眉を顰めながらも、
「……どのくらいで集まる?」
事務的に必要な情報を聞いておく。
『600を数えるまでには全員集まる』
本音を言えばもう少し早く集まって欲しい所だ。
だが、贅沢を言っていられる状態でも無い。
「分かった。全員が終結するまで待機を命じる。作戦説明の前に装備の確認を入念に行っておくように」
『ハッ!』
言っても仕方の無い事は胸に仕舞い込んで、部隊長は必要な指示を飛ばした。
騎士達が集まって行く様子をエーゼルは精霊を通して見ていた。
(チッ……!数が増えつつあるな。連中が仕掛けて来るまであまり時間はなさそうだ)
「戦える者は急ぎ配置に付け!時期に連中は来るぞ!武装と罠の確認を今の内に済ませておけ!」
『了解!!』
「生産部は引き続き矢の量産を頼む!農耕部と神殿部は協力し脱出の準備を進めておけ!戦えぬ者達は回復と準備が出来次第南の外壁の焼けた穴から脱出して当初の予定通り南へ向かえ!」
『分かりました!』
エーゼルは指示を飛ばして自らも配置に着く。
狩猟部、生産部の面々はエーゼルと共に樹上や屋根の上等の高所に飛び移る。
「皆、生き残りを賭けた戦いだ!各々全力を尽くせ!」
『おおッッ!!』
配置に着いた面々は矢を持てるだけ持っていた。
遠距離戦を得意とするエルフにとって矢の数は戦力に直結する。
持てるだけ持って当然である。
外壁の奥、防護結界のある辺りに目を向ける。
防護結界の手前、5mぐらいの地点に10m四方ぐらいの四角い穴が突然空く。
その穴の中は傾斜になっていてそれを騎士達が上ってきて、防護結界の下を通り抜けて来る。
それに関しては予想してたので驚きは無い。
続々と騎士達が出てきて70~80人ぐらい穴から出て来る。
これに関しては地下まで影響の及ばない防護結界の構造的欠陥だ。
騎士達は密集して隊列を組む。
エルフ達は無言で弓を引き絞る。
騎士達とエルフ達双方が静かにこれから始まる戦いに備えた準備を完了していた。




