それぞれの戦い(エーゼル) 17
ゴドリックが稼いだ時間の中、エーゼルもまた戦っていた。
敵はまだ姿を見せていない。
だが、敵と対峙するまでもまた戦いなのだ。
「急げ!大型の家具を積んで穴を塞いで壁を作れ!罠を仕掛けろ!ありったけだ!」
籠城戦をする以上準備が必要だ。
全員が大なり小なり疲弊しているが、それでも懸命に動いていた。
エーゼルから準備を任された各部門の長達が指示を飛ばしている。
エーゼルは全員から休息するように言われ、部門長全員から押し切られた結果、現場には居ない。
だが、この状況で『休め』と言われても素直に休めるエーゼルではなかった。
一度家へと戻り、薬の補充等の装備品を整えるとエーゼルは聖樹の下へと向かった。
(聖樹か……)
森の中で一番の大きさを誇るその巨木をエーゼルは見上げる。
エルフ達の護る森の生命の象徴。
水、土、空気を浄化し、聖樹と共に暮らすエルフ達に様々な恩恵を与える偉大な木だ。
エーゼルは聖樹という存在があまり好きでは無かった。
大きな恩恵を与える事でエルフ達をその土地に縛る付ける存在の様に感じていたからだ。
エーゼルはハイエルフの特性上、普通のエルフと比べて聖樹との親和性が高い。
それ故にエーゼルは聖樹の神子としても扱われている。
戦闘タイプのハイエルフであるエーゼルは聖樹の意思を明確に聞ける訳ではない。
何となく聖樹の意思を感じ取れる程度の能力しか持ち合わせていない。
(だが、今はその好きでは無い存在の力を頼り、縋ろうとしているのだから勝手な話だ)
そういう風にも感じていた。
それでも、他のエルフよりも感じ取れるモノが多いからそういう扱いになっているに過ぎない。
(神子としての能力に最も長ける者が産まれによって爪弾きにされているとは全く以て皮肉な事だ)
エーゼルとは違い神秘方面に特化したハイエルフであるミラフィア。
彼女が植物の精霊との親和性に特化している以上、聖樹との親和性に最も長けているのはミラフィアだ。
(……だが、それで良かったのだろう。あの者がこの様な下らないしがらみに縛られずに済んだのだからな)
それもまた皮肉な話であった。
エルフが『森人』と言われるのは無論、森と密接な関わりがあるからだ。
正確に言えば、聖樹の存在する森と密接な関わりがあるのだが、基本的にエルフは聖樹から離れようとしないので同じ事だ。
聖樹との距離が近い程にエルフは全ての能力値が上がる。
ハイエルフであるエーゼルはその上昇率も高い。
だが、聖樹と最も近い里の中においてもその上昇率は決して高いとは言えない。
その理由は、この里の聖樹は未成熟な若木に過ぎないからだ。
元々からして里が襲われて持ち出した聖樹の種からこの地に植えて育てられた聖樹なのだ。
その能力が低いのは仕方の無い事なのだ。
聖樹はエルフの住む環境を生み出し、エルフは聖樹を護る。
聖樹がエルフにとって生き易い環境を作るのはエルフが生きる中で放つ魔力や生命力を吸って成長する樹だからだ。
そういう共生の関係だ。
(だからこそ出来る事もある)
エーゼルは聖樹の幹に触れる。
「聖樹よ、我が願いを聞き届け賜え。我が時、我が命の欠片を汝に捧げよう」
(聖樹がエルフの魔力や生命力を糧に成長する樹だというのならば、無理矢理でも成長させてやれば良い!)
エーゼルの持つ寿命を吸い上げてメキメキと軋むような音を立てながら聖樹が急成長していく。
ハイエルフはエルフの何倍もの寿命を持つ。
一般的なエルフでさえ4000~6000年の寿命を持つ。
ハイエルフとなると固体によっては10000年以上も生きたという記録さえある。
数年単位、10年単位の寿命では聖樹はここまでの成長は見せない。
だから、エーゼルは1000年単位で自らの寿命を一気に聖樹に吸わせていた。
負ければ命を捨てる覚悟を決めていたエーゼルに躊躇いは無かった。
それにエーゼルは長生きする事に興味が無いのがそれを後押ししていた。
無駄に長く生きているだけの老害を散々見てきたエーゼルはああいう風にはなりたくないという確かな思いがあった。
聖樹の力が強まれば、里のエルフ全体の強さが跳ね上がる。
そして、ハイエルフであるエーゼルもまたその恩恵を強く受ける。
エーゼルはその身に受ける力がみるみる強まるのを実感していた。
(だが、それだけでは足りない。今の我に欠けているモノ。それは戦える姿)
今のエーゼルは子供だ。
短い腕ではどれだけ力があっても大きな弓を扱えない。
術で誤魔化すのにも限度があるし、無駄が多い。
だから、エーゼルは聖樹に願った。
自らも戦うに相応しい姿になりたいと。
聖樹はエーゼルから与えられた寿命を代償にその願いを叶える。
だが、代償はそれだけではなかった。
聖樹はエルフに活力を与える力を作用させて、エーゼルの願いを叶えるべくエーゼルを急速に成長させる。
「グゥッ……!!」
その結果、全身を引き裂くような激痛が駆け巡る。
泣き叫びたくなるような激痛をエーゼルは歯を食いしばってただただ耐えた。




