それぞれの戦い(ゴドリック) 10
突きを潜り抜けられたのを見て、ゴドリックはパッと両手を杖から放して両腕を胸元に持ってくる。
ガギンッ!!
騎士に突き出された剣を左腕の篭手で漫才師がツッコミを入れるような動作で内側から外側へと弾くような形で打ち払う。
ゴドリックの身長は高いので必然的にそういう形になってしまっていた。
鮮血熊の張手さえを容易に払い除けた裏拳は騎士の剣の腹に当たり、『く』の字に曲げる。
軽く払っただけように見えてもその打ち払いは強力で、剣を払われた騎士はその威力に体ごと持っていかれてバランスを崩す。
シュッ……!
剣を払われて無防備になった騎士の顔面目掛けてゴドリックの右腕の斜め上から撃ち下ろす拳が振るわれる。
「くっ……!」
騎士は上体を前に倒しながら無理矢理前に出て、その拳の下を掻い潜った。
だがしかし……
ガッ!
拳を潜り抜けた先に待っていたのはゴドリックの膝だった。
拳の間合いの更に内側に入られたゴドリックは躊躇うことなく更に前に出た。
そうする事で相手の攻撃の威力を殺せる上、下手に距離を取ろうとするより遥かに安全だというのはシュラとの訓練で嫌になる程理解していたからだ。
踏み出した足が結果的に膝を置いていたかのように騎士の顔面に突き刺さっていた。
「うぐッ……!」
自らの前進する勢いとゴドリックの前進する勢いを顔で受けた騎士は重量差の関係で仰け反る。
その隙を見逃す訳も無くゴドリックは踏み込みの勢いをそのままに更に拳を突き出す。
騎士は無理に体勢を立て直そうとするのではなく、流れのままに背中から倒れる事を選んだ。
それによって無様であっても拳を回避した。
体勢を立て直そうとしていれば確実に拳の餌食になっていたので、それは正しい判断と言えた。
騎士は素早く起き上がる為に横に転がって仰向けから俯せになり腕で地面を押して体を持ち上げる。
その間にゴドリックはズンズンと前に進んで来ていた。
『どちらにせよ長くは持たなそうだ』と、騎士は嫌でも理解させられた。
その中で自身が出来る最善の行動を必死で考える。
起き上がろうとする自身の目の前に先程ゴドリックが手放した杖が転がっているのに気付く。
(これはあのオークの武器……これを後方に投げれば!)
目の前のオークは無手で残りの面々と相対する事になる。
最後の最期の嫌がらせ程度にはなると判断した騎士は転がっている杖を握る。
そして、当然それをブン投げようとしたのだが……
「い”ッ……!?」
(重い!持ち上がらない!?)
竜の巨大な体を支える骨は高密度で頑丈に出来ている。
その分、重いのだ。
その杖はシュラが作ったゴドリック専用武器なだけあって、決して一般向きではない仕様だったりする。
力に優れるゴドリックだから振り回せるだけであった。
ゴドリックが軽々と振り回していたから、つい軽いものと騎士は思ってしまったが到底投げられるような重さをしていないと理解させられた。
騎士の身体能力ではギリギリ持ち上げるのが精一杯といった具合だった。
騎士がチラリと後ろを振り向くと、足を振り上げるゴドリックの姿が見えた。
文字通り蹴散らすつもりなのだと分かる姿だった。
(ならば……)
騎士は覚悟を決めた。
迫る足を尻目に騎士はゴドリックの杖を何とか持ち上げて、その身に抱え込む。
ドゴッ!!
ゴドリックの脚力で胴体を蹴り飛ばされた騎士はそれはもう道端の石ころのように軽々と吹き飛ばされた。
一般に脚力は腕力の倍以上の力を有していると言われる。
元々の腕力からして尋常じゃない力を有しているゴドリックの蹴りはそれはもう騎士にとってとんでもないものであった。
骨が砕け、内臓がぐしゃりと潰される威力の蹴りを受けてもその騎士はゴドリックの杖を決して手放さなかった。
騎士の体と共に杖が吹っ飛んで行く。
死に逝く中、その騎士は『ざまみろ』とでも言わんばかりに笑っていた。




