それぞれの戦い(ゴドリック) 2
斥候系の職に就いた事のないゴドリックには探知系のスキルというものを所持していない。
だが、彼は非常に鼻の利く種族であり、それを最大限に発揮してエーゼルの位置を察知していた。
普段は森の中で食べられる植物を探したり、魔物の位置を探って可能な限り遭遇を回避したりするのに使われる鋭敏な嗅覚はかなり離れた所に居るエーゼルの位置をかなりの精度で掴んでいた。
(む……エーゼルが移動し始めた。先程より速度が遅い。魔力が尽きているのかもしれない。これは急がねば)
臭いから得られる情報だけでゴドリックはエーゼルの状況をある程度察していた。
(幸い、エーゼルは北に向かって移動している。今から手前が東に向かえば、エーゼルを追う騎士達の動きを阻めるかもしれない)
速度的にはかなりギリギリになりそうだが、多少無理すれば十分間に合う範囲だとゴドリックは判断した。
「済まない」
エーゼルを救うために無理を通すと決めたゴドリックは一言、謝罪の言葉を口にする。
そして、向かう先を南東から東へと切り替えて一直線に突き進む。
森というのは当たり前の事だが大量の木々が合って真っ直ぐに進めるような場所では無い。
だが、ゴドリックは自らの先にある木々に対し、杖を振るう、或いは肩で体当たりして払い飛ばして文字通り直進した。
ゴドリックが謝ったのは森に対してだ。
元々樵でもあったゴドリックは無駄な自然破壊を好まない。
それでも、ゴドリックにとってエーゼルの命には代えられないものであった。
だからこそ、これから行う自らの行為に対して先に謝罪したのだ。
ゴドリックが木々を跳ね飛ばして走る様をシュラが見ていたら間違いなく『まるでブルドーザーか暴走する乙○主のようだ』と表現しただろう。
文字通り目の前の障害を粉砕しながらゴドリックは最短距離を突き進む。
そして、向かった先でエーゼルを追う騎士達の姿を見た瞬間であった。
(これ以上……手前の大切な者をお前達などに奪わせてなるものか!)
全身の血液が沸騰したかのような激しい怒りが湧き立ち、目の前の木々を騎士達の向かう先に飛ばしていた。
ゴドリックによって飛ばされた木々は狭い獣道を塞ぐような位置に落ちた為、騎士達の足が止まった。
それと同時にゴドリックは藪を突っ切って、騎士達の目の前に立つ。
突然の出来事に困惑する騎士達を前にゴドリックは純然たる殺意を以て、両手に握った杖を振り下ろして叩き潰す。
狭い獣道で一直線に並んでいた騎士達が数人纏めて肉塊へと変貌する。
「ヒッ……!!」
血肉が撒き散らされて、ギリギリ杖の届かない範囲に居た騎士は壮絶な光景に恐怖し、尻餅を着く。
「ガァッ!!」
ビチャッ!!
血溜まりを踏み付けにして粘っこい音を立てながらゴドリックが前進し、杖を振るう。
そしてまた、数人の騎士達が肉塊へと姿を変えられる。
「クソ!何なんだ、アレは!?」
「もう少しでハイエルフを捕まえられるって所で出てきやがって!」
突然の状況に混乱を隠せない騎士達の幾人かが憤りを露わにゴドリックに向かって突き進む。
「ゴルァァァッッ!!!」
だが、激しい咆哮と共に振るわれる杖に粉砕される。
「一度退け!」
その光景を見ていた部隊長が指示を飛ばす。
「しかし、ハイエルフが!」
獣道の先……
ゴドリックの後方で離れて行くエーゼルの姿を見ていた誰かが焦りの声を露わにする。
「この狭い道じゃ向かって行っても順に叩き潰されるのがオチだ!ある程度囲めるだけの広さが無いとあの化物は殺れん!それにあのハイエルフのガキは魔力枯渇寸前だ!迂回しても十分追い付ける!あの化物を殺すのに十分な人数を残して、あの生意気なハイエルフを追う!」
「ッ……了解」
部隊長の判断は正しいと理解した面々は逸る気持ちを抑えて迅速に行動を開始する。
だが、作戦を聞いていたゴドリックが思惑通りに運ばせる道理など無かった。
「ゴオオオォォッッ!!!」
自身の背後に倒れていた木を掴んで全力でそれをブン投げる。
投げられた木は騎士達の頭上を越えて、退こうとしていた獣道の先へと突き刺さる。
「これはただの凶暴な野獣と思って相手したら痛い目を見そうだ」
それを目の当たりにした部隊長は、ゴドリックがただ本能のままに暴れ回る狂戦士ではないと見抜いて、愚痴るように溢した。




