それぞれの戦い(ミラフィア) 8
ミラフィアは胸倉を掴まれ、片手で持ち上げられた。
「うっ……!」
服が首筋を圧迫する苦しさに声が漏れる。
「さて、先ずは軽く肌を炙る所から行ってみようか。あの煙の肌が焼かれるような痛みを是非とも味わって貰わないとなぁ」
ボッ!
ミラフィアを掴み上げた騎士は火の魔術を詠唱して、空いた片手の前にメラメラと火が点る。
見慣れている筈の火なのに目が離せない。
思わず息を呑む。
「ククク……良い表情だ。せいぜい良い声で鳴いてくれよ?」
その騎士はミラフィアの恐怖を煽る為にわざとゆっくりとその手の炎を顔の方へと近づけていく。
少しずつ強く感じられる熱気がより恐怖心を掻き立てる。
その火が肌に触れるか触れないかと言う距離まで迫った時、ミラフィアは怖くてギュッと目を閉じた。
(怖い、怖い、怖いよ!)
火傷の痛みは当然知っている。
それを想像するだけで冷や汗が出て来る。
だが、その痛みがしばらく経っても一向に来ない。
先程まで感じていた熱気も感じられなかった。
(焦らしてるのかな?)
そう思い目を開けて見ると……
「え……?」
予想だにしない光景がその目に飛び込んできた。
自らの眼前でその騎士の腕が炎ごと凍結していた。
炎は凍結した瞬間の形で固まっており、騎士の腕は氷に覆われて真っ白になっていた。
よく見ると、ミラフィアを掴み上げている逆側の腕も同様だった。
バリッ……!
ミラフィアを掴み上げていたその腕はミラフィアの重さに耐えかねたように肩の先の上腕部で折れた。
「わっ……!」
腕と一緒に重力に従って落下を始めたミラフィアは浮遊感を感じたが、次の瞬間には腹部に痛みを感じないぐらいの圧迫感と共に持ち上げられる感覚を味わっていた。
背中側が暖かく、抱きしめられているのだと分かる。
「汚いその手でこの娘に触れないで貰えるかな?」
頭上から聞こえて来たのは聞き覚えのある声。
ミラフィアがバッと上を見上げると……
「ティアリエ!」
鋭く冷たい眼差しで騎士を見詰めるティアリエの顔が見えた。
「やあ、ミラフィア君。よく頑張ったね。私が来たからにはもう大丈夫だよ」
先程の表情がパッと変わり、ミラフィアを見下ろして語り掛けるティアリエは慈愛に満ちていた。
ティアリエはミラフィアを抱きかかえて地面から1m程の高さを飛んでおり、その背の翼を羽搏かせてふわりと地面に降り立つ。
「腕がッ……!?俺の腕がァァァァッッ!!?」
ミラフィアを掴み上げていた腕が地面に落ちて、床に叩き付けられたガラスの様に粉々に砕け散ったのを見て、騎士は狂乱する。
驚愕で体を大きく動かしてしまった為に逆側の腕も肘と肩の間辺りで『バキリ』と割れて落ちて砕け散る。
「さて、いい加減出てきたらどうだい?」
両腕を失って騒ぐ騎士ではなく、その奥を見据えてティアリエが告げる。
「ほう、気付かれていたか」
すると、20m程度離れた位置の繁みから3人の騎士達が姿を現した。
「その男の行動を止めてくれて感謝する。危うく価値が下がりかねない所であった」
隊長である騎士がそう言うと、後ろに控えていた2人は矢を放ち、両腕を失った騎士の頭と胸を射抜いた。
「報復も多少なら構わないのだが、その男は嗜虐趣味が過ぎてね。いつもやり過ぎてしまうから、わざと泳がせておいて目標補足を確認次第、処分するつもりだったので楽が出来て非常に助かる。分け前も増えて万万歳だ」
その騎士達は仲間を殺したにも関わらず、淡々としていた。
その無機質な姿がミラフィアには不気味に見え、寒気を感じさせた。




