それぞれの戦い(ミラフィア) 7
ミラフィアは懸命に自身に出来得る最善を尽くした。
しかし、レベル差、ステータス差という現実は非情で彼女の努力を嘲笑うかのように追跡者はとうとう追い付いてしまった。
「ククク……見~付けた」
嗜虐的な感情を隠そうとする事も無く、その騎士は嗤う。
ゾワリとミラフィアは全身に寒気が走るのを感じた。
その騎士は単独であったが、どう足掻いた所で勝てる相手では無い。
「!」
目視で発見されたと理解したミラフィアは地面を蹴り出すと同時に自分に向けて吹かせている風を地面に向ける。
ブワッ……!
地面に散っていた落ち葉が土煙と共に舞い上がる。
時間は短いかもしれないが、姿をくらませるには十分な行動だった。
その一瞬の間にミラフィアは顔の前で腕を交叉させながら繁みの中へと飛び込む。
枝葉が腕に勢いよく当たった痛みで少し涙目になっていたが、それでも彼女は繁みの中を低い姿勢を維持したままで走った。
「チッ……面倒な所に入りやがったな」
その繁みは追っていた騎士が入るには狭いもので小柄なミラフィアだからこそ駆け抜ける事が可能なだけであった。
「仕方ねえ、切り払って進むか」
面倒臭そうに言いながら騎士は剣を抜いて、藪を切り払って自分が進めるだけのスペースを確保しながら進む。
速度は大分落ちたが、その騎士は完全にミラフィアを見失っていたにも関わらず正確にミラフィアの後を追っていた。
その後もミラフィアはあの手この手で何度もその騎士の前から姿を晦ませたが、何度やっても騎士はミラフィアを確実に追跡していた。
ミラフィアは奮闘したが、それにも終わりが訪れる。
体力が尽きたのだ。
足が動かなくなり、躓いて転んだ後、彼女は立ち上がれなかった。
「追いかけっこはもう終わりかい?」
ミラフィアが震える足で必死に立ち上がろうとしている最中、その騎士は悠々と姿を現す。
「流石は『森の民』と言われる種族だけある。正直、ここまで長く追う羽目になるとは思わんかったぜ」
自嘲気味に笑いながら騎士は言う。
(気配の偽装は完璧だったのに……どうしてここまで正確に追って来れるの?)
そう、ミラフィアは逃げ出してから一瞬たりとも気配の偽装を解いてはいなかった。
だからこそ、目の前の騎士が正確に自らの位置を掴んでいたのか不思議でならなかった。
「何で追って来れたのか、不思議そうな顔をしているなぁ?言っておくが、気配の偽装は完璧だったぜ。今、目の前に見えていても存在感を感じ取れねえしな」
「!?」
(だったら、どうして!?)
その騎士の言葉に尚の事戸惑う。
「種明かしをするとだな。俺は見た目は完全に普人種だが、少しだけ獣人種の血を引いていてな。嗅覚だけは犬系の獣人種とほぼ同等なモンで嬢ちゃんの靴の裏の土の臭いや、傷付いた植物の臭いを追えたって訳だ」
ミラフィア自身は森と気配を同化させていても、移動によって踏んだ土や植物から発される臭いは隠せるものでは無かった。
常人なら気付けないかもしれないが、嗅覚に優れている相手からすれば、それは到底隠せるものでは無いのだ。
「ククク……良く『止め足』を使って俺達を撒いてくれたモンだ。感謝するぜ」
「?」
ミラフィアはその言葉の意味が分からなかった。
だが、猛烈に嫌な予感がするのだけはビンビンと感じていた。
「隊長達が来るまでの間、お前さんにはさっきの煙の礼をしてやらねえとなぁ?」
ゾッ……!
その騎士がミラフィアに向ける視線は狂気が含まれていた。
ミラフィアは疲労だけでなく恐怖でも足が震えるのを感じてしまう程だった。
「骨折ぐらいなら簡単に治せるハイポーションがあるから少しぐらいは憂さ晴らしが出来るってモンだ。ま、ハイポーションは少々値は張る品なんだが、エルフの売却額からしたらはした金も同然だから気兼ねなく使えるしな」
「い、嫌……」
足が動かないミラフィアは腕を使って後退するが、その動きは途轍もなく遅い。
どう足掻いても逃げる事すら不可能な状況であった。
それが分かっているからこそ、その騎士はニマニマと嗜虐的な表情を浮かべて、わざとゆっくりとミラフィアに歩み寄ってその手を伸ばした。




