それぞれの戦い(エーゼル) 8
(里の者達が安全圏へと離脱するまでまだまだ時間が掛かる。我がその時間を稼ぐ)
エーゼルはバシュバシュと絶え間なく矢を一射につき3~4本、矢がみるみる無くなる速さで空に向けて放ち続ける。
背中に背負っていた4つの矢筒が空になるとそれらを捨てて、腰の裏側に取り付けた最後の矢筒に手を伸ばす。
敵を待ち構えるエーゼルの視線の先、森の木々の向こう側から鎧を纏った100人以上の一団が真っ直ぐに向かって来ているのが見えた。
バシュンッ!!
視界の中に敵を捉えると同時にエーゼルは4本の矢を放つ。
それらは鬱蒼と生い茂る森の木々の間を抜けて一団へと向けて飛び……
バシン!
剣に切り落とされた。
それも4本全て。
放った矢はそれぞれ別の相手を狙ったが全員が当然の如く矢切を行っていた。
木々によって視界が悪く、更に言えば軌道が自然なもので無いのにも関わらずだ。
(やはり、全員が強敵か!)
「チッ……!!」
想定はしていた事であったが、それが事実として明らかになると舌打ちの1つもしたくなるというものであった。
バシュンッ!!
エーゼルは次もまた矢を4本同時に放つ。
ただ1つ違うのは、今度のは4本の矢を先頭に居た1人に集中したという点であった。
2本を剣で切り落とし、1本を篭手で弾いたが最後の1本が喉を射抜く。
(4本使ってようやく1人か。効率が悪い!)
倒れる仲間には目もくれず、救出しようとするどころか突き飛ばし、残った全員が避けようともせずそのまま踏み付けて進んで来る。
あれだとエーゼルの攻撃で奇跡的に生きていたとしても、今ので確実に死んだだろう事が分かるというものだった。
「1人減ったぞ!喜べ!分け前が増えたぞ!」
『イエェェェェェッ!!』
カルディア傭兵国の集団的な奴隷狩りの報酬は、総額を生き残った人数の頭割りだったりする。
故に人数を減らす事に躊躇が無い。
減れば減るだけ報酬が上がるのだから。
(味方を躊躇なく殺すか、狂人共め!)
嫌悪感が湧き上がる中、エーゼルは止まる事無く次々と矢を放ち続ける。
空中で矢同士をぶつけたり、木を使ったりして直前で矢の軌道を変えるという芸当で敵の矢切を外して2人、3人と少しずつ倒してはいるが、戦闘続行不能と思わしき傷を負った者は後ろから切り捨てられ、その勢いが弱まる事なく猛進してくる。
(そろそろ防護結界があるぐらいの位置だが……あの様子だと期待薄だな)
敵は防護結界の目前という距離にまで迫っていて、エーゼルまでの距離は残り150m程だ。
敵は周到な用意をしてやって来ている。
そんな連中が真っ直ぐに向かって来るとなると……
ズドドドド……!!
案の定素通りであった。
(連中、エルフの魔力を宿す何かを所持しているか、エルフの血を引く者の協力を得ているな)
エルフ族の防護結界はエルフの魔力を宿すモノを通すという特性がある。
それを利用したのだろう。
エルフに詳しい者が居れば対策は簡単に取れる。
捕まえた奴隷にエルフが居れば、その皮を剥いで護符にして所持するなり、所持品に魔力を込めて貰うなりすれば良いだけなのだから。
(我1人では連中の足を止めさせるには手が足らんな)
それだけの強さを敵は有している。
誰1人として簡単に倒されてくれない。
(となれば、連中を里の者達から引き離すしかあるまい)
「この痴れ者共が!!我らが聖域を踏み躙った事を後悔させてくれる!」
それまで隠れながら矢を放ち続けていたエーゼルは敢えて姿を曝して声を張り上げた。
「見ろ!あのガキの長い耳!ハイエルフだ!!」
『オオォォォォォッ!!!』
誰かの言葉に空気が震える程の歓声が森の中に響き渡る。
「のっけからハイエルフとはツキが回って来たようだ!良いか、あのガキはエルフ100人分以上の価値がある!絶対に逃がすんじゃねえぞ!?」
『オオオォォォォォォォッッッ!!!!!』
ダッ!
一団がエーゼルの存在を認識し、その意識が集中したのを感じるのと同時にエーゼルは真っ直ぐ西側へと走り出して矢を放つ。
その珍しさを利用して自らの身を囮としてエーゼルは決死の覚悟で一団を引き離しに掛かった。




