それぞれの戦い(エーゼル) 7
「チッ……!バカのせいで無駄に時間を喰ってしまった」
壇上でエーゼルは本気の舌打ちをかましていた。
それだけ、怒り心頭であった証拠でもある。
だが、その声は今現在風の精霊によって拡散されていると気付き、
「皆の目前で醜態を曝してしまって済まない」
と一言謝った。
「里長、話を戻そう。避難の許可を……」
「ああ。避難を許可しよう。里長として命じる。エーゼル、君が全体の指揮を執れ」
「宜しいので?」
それは暗に『20歳にもなっていない若造が指揮を執っても良いのか?』という問いであった。
「勿論だ。あれだけ里の者達の事を思ってくれている君になら誰も『否』とは言わないだろう」
里長の言葉に対し、
「だな!我ら警備部一同、若様……いや、エーゼル様の思いには感銘を受けました。貴方の指揮であれば喜んで従いましょう」
「狩猟部も同じ気持ちです、エーゼル様」
真っ先に戦闘能力を有する2つの部門の長がエーゼルに対し膝を着き、頭を下げた。
それに続いて農耕部、生産部、神殿部の部門の長達も同じく首を垂れる。
そのタイミングであった。
ドゴォォンッ……!!
離れた所から響く爆発音。
『エーゼル様!里の南側から東側にかけての地面より激しい火の手が噴出!外周部の一部が炎上しております!』
続いて門番からの報告が響いた。
「報告ご苦労、応援が向かうまで周辺の家屋を破壊して延焼を防いでくれ!」
『了解しました!』
エーゼルの命に応える門番の声は静まり返っていた広場に大きく響き渡っていた。
「聞いての通りだ。敵は既に動き出している!ここから先は迅速な行動を心掛けて欲しい!警備部は避難誘導を頼む。女子供を連れて西側から里を出て南下して、何があっても逃げ延びろ!」
「了解でさぁ!」
「狩猟部は先ず南から東にかけて探知結界の外側に潜む部隊の殲滅!後に警備部と合流して避難民の警護に当たれ!」
「了解した」
「農耕部と生産部は門番と協力して消火及び延焼の防止を頼む!大規模な森林火災に発展すれば逃げた所で全滅の恐れがある」
「「了解!」」
「神殿部は聖樹の若枝と種子を持ち出しておいてくれ。我らの聖樹を絶やさぬように」
「了解致しました!」
「では各自各々の役目を果たし、何があっても生き延びろ!何かあれば声を飛ばして報告しろ!我からは以上だ。それでは行動を開始せよ!」
そして、エルフ達はエーゼルという指揮官を得て、生き残るための行動を開始した。
エーゼルは警備部の避難誘導を手伝いながら里の中を駆け巡り、風の精霊による周辺探査を行って取り残された民がいないか等を確認を行う。
そして、避難民の殿に就いて敵の襲撃に備える事にした。
(敵の強襲部隊の位置は北西だ。我らの動きを察知して南下して里を出た西側で襲って来る可能性がある)
そう判断しての事である。
火の手が上がった以上、それを確認した強襲部隊はほぼ間違いなく行動を開始しているだろう。
であれば、万が一に備えるのは当然と言えた。
そして、その予想は見事に的中する事になる。
(来たか……)
里を出た辺りで森の向こう側から段々と地響きが近付いて来るのをハッキリとその身で感じていた。
ギリッ……!
エーゼルは無言で弓の弦を引き絞った。




