それぞれの戦い(エーゼル) 6
各部門を取り仕切る長達は実利を見据える事の出来る現実主義者だ。
きちんと説明してやれば大丈夫だという確信はあった。
そして、事なかれ主義の里長は大勢が決まれば流される。
「里長」
「分かった。避難を許可しよ……」
「待てぇい!!」
里長が許可を出そうとした時に大きな声が広場から響く。
(チッ……!来やがったか、最後まで黙って見ていれば良いものを)
エーゼルはその声を聞いて、内心で大きな舌打ちをする。
今現在、壇上の声は里の全域に拡散している状態なので悪態を吐いて、余計な敵愾心を煽るような事はしないが、顔を顰めてしまうというものだ。
「若造の戯言と思って黙って聞いておれば何だ!『聖樹を捨て置いて避難する』だと!?冗談では無い!!何故人狩り風情を相手に逃げ出さねばならんと言うのか!?敵は200を満たない程度ではないか!」
ズンズンと不満を露に広場を抜けながら叫ぶように捲し立てるのは、この里における長老衆の頭目であるガイウス。
見た目は人間で言う初老ぐらいではあるが、成人してからは人間に例えると100年に1歳ぐらいしか歳を取らないエルフであるのでその年齢は6000歳を超えていた。
何事においても、自らの凝り切った価値観のみが正しいと信じて疑わない生ける化石だ。
「里の者総出で戦え!!さすれば勝利できるであろう!」
「ガイウス長老。言葉を返す様ですが、我々の里で戦う能力を持つのは警備部と狩猟部の全員を集めても100を満たない」
エーゼルは努めて冷静でいるように心掛けて反論する。
「それがどうした!?1人につき2~3人殺せば良いだけの話であろうが!」
(簡単に言ってくれる!)
敵はエルフに対する知識が有ると言っても、森の中でエルフの探知を逃れる事の出来るだけの実力を有する150人以上の集団なのだ。
対人戦に限れば間違いなく敵の方が実力は上だ。
里を囲っていた部隊の者達であっても知覚外からの奇襲での暗殺でなければ、あれほど簡単には倒せなかったような相手ばかりであった。
連中を殺したことで幾つも上がっていた自らのレベルがそれを証明していた。
襲撃を担当する部隊は間違いなくそれ以上の実力を有する集団だ。
「剣が届かない弓での戦いであれば、エルフの特性もあってある程度は優位に戦えるだろう。だが、突破されて近付かれたらその時点で最後……間違いなく崩壊しましょう」
「そうならない様に立ち回れば良いだけの話ではないか!」
ビキリ……!
何も考えていない向こう見ずな発言に思わずこめかみに青筋が立つのをエーゼルは感じた。
『それが出来るならとっくにやっている』と広場に居た誰もが思った。
(バカの相手をまともにしてはならない。疲れるだけだ……)
そう思う事で無理矢理怒りの感情を押さえ付ける。
「ガイウス長老は『我々に死ね』と申したいのか?」
「ああそうだ!聖樹の為に戦って死ぬるはエルフにとっての誉れ!聖樹が穢される様を見過ごすはエルフの恥!戦え、聖樹とエルフの誇り為に!!命を賭して!」
ブチン!!
その里の者達の事を一切顧みない発言にエーゼルは自分の中で何かが……
堪忍袋の緒が切れるのを感じた。
「黙って聞いていれば初めに無視を決め込んだ分際で、後からやって来て好き勝手言いおって!もう勘弁ならん!!」
激昂するエーゼルを見て、その場に居た全員が驚く姿が見えたが、それに気付けない程にエーゼルはブチ切れていた。
時間の無い現状がそれを後押ししてしまった。
それに兼ねてより長らく溜まっていた鬱憤がここに来て爆発してしまったというのも勿論あった。
「え、エーゼル?」
里長がこれまで見た事のないエーゼルの様子に困惑を見せる。
「そう言うのであれば、自らが進んで最前線に立つ覚悟があるのだろうな!?」
「な!?我らは里の趨勢を担い、誇らしきエルフの歴史を語り継ぐ長老だぞ!」
「そうやって、里の者達を煽った結果、元居た里を滅ぼしたのだろうが!!」
「な!!?」
エーゼルの言葉はガイウス長老の心に深く突き刺さるものだった。
何故ならそれは正にその通りだったからだ。
「また、繰り返すつもりなのか!過去の惨劇を!!今は貴様のような『恥』だ『誇り』だと言って散々煽っておいて、いざ自らの危機を目前にした瞬間に命惜しさに逃げ延びた卑怯者共に構っている時間など無いのだ!」
それは完全にエーゼルの本心であった。
それだけにその言葉は聞いている者達に深く深く突き刺さるものがあった。
「我は次期里長として、未来を繋ぐ為に里の者達を生かす責務がある!より多くを生かす為ならば如何なる恥辱も受け入れよう!無為に死ねと言う、貴様の身勝手が凝り固まった精神論を我らに押し付けるな!過去の栄光に縋り、現実から目を背け続け、取り残される事を選んだ風情が今更口出しをするな!!」
エーゼルは吠える。
「貴様、貴様、貴様、貴様ァァァッッ!!!」
エーゼルの言葉は完全にガイウスの逆鱗に触れた。
激怒したガイウスの手から空気を圧縮した風の砲弾がエーゼルに向かって放たれる。
しかし、それはエーゼルに届く目の前で霧散してそよ風となった。
エーゼルの周囲に居た風の精霊達が砲弾を散らしたからだ。
「な!?」
それを見てガイウスは驚く、エルフとハイエルフの精霊に対する干渉力の違いそれがハッキリと現れていた。
「フン……事実を言われ言葉で返すでは無く暴力を用いようとするとは、『誇り』だ『恥』だと言っていた貴様こそが一番『誇りの無い』、『恥知らず』ではないか。先程の言が本心だというならば1人で勝手にやっていろ。手の込んだ集団自殺に我らを巻き込んでくれるな、老害」
鼻を鳴らせてそのように告げたエーゼルは完全に見切りをつけていた。
崩れ落ちるガイウスにエーゼルが視線を向ける事は2度と無かった。




