それぞれの戦い(エーゼル) 5
エーゼルが広場に向かうと、広場の近くに居た者達から順に集まってきている姿が確認できた。
里全体の人口は400人程。
その中の150人程度が既に集まっていた。
「あ、エーゼル様だ!」
広場に居た子供が向かって来るエーゼルに気付いて声を上げる。
「エーゼル様、一体どういう……ヒッ!」
そして、広場の入口近くに居た者が訊ねようとしたが、エーゼルがその手にぶら下げている物を見て息を呑んだ。
まだ血の滴る生首。
それをいきなり目の当たりにしては引き攣った声を漏らして当然と言えた。
「説明は上役が集まった後にする。我としても何度も同じ説明を行うのは手間なのでな」
「は、はい」
静かながらも真剣な剣幕のエーゼルを見て、その場に居た全員が押し黙った。
広場の中央に備え付けられた壇上へと向かうエーゼルを妨げないように人垣が割れて自然と道が出来あがる。
その道を突き進み壇上に立ったエーゼルは、
「門番からの報せの通り、上役が集まり次第事態の説明を行う!それまで待ってくれ!」
と広場に集まって居た者達に告げた。
本当ならその時間さえも惜しいのだが、自分も里の一員でしかない以上必要な事であった。
「エーゼル、先程の報せは一体何だと言うのだね?」
「おいおい、若様よ。こちとら聖樹祭の準備に忙しいんだが……」
壇上に里長と警備部、狩猟部、農耕部、生産部、神殿部の各部門長達が集まって来た。
「長老様達は?」
「『どうせ若者の戯言だ』と言って取り合ってくれなかったよ」
里長に訊ねるとそんな答えが返って来た。
割といつもの事である。
「そうか」
いない方が話が早く進むので好都合と言えた。
それを口に出したりはしなかったが、それを聞いてエーゼルは内心歓喜した。
「里長と部門長達が集まったので事態の説明を行う!現在、この里はカルディア傭兵国の人狩り共に襲撃されようとしている!」
「「「「「「なッ!!?」」」」」」
エーゼルの言葉に里長と部門長達は動揺を露わにしていた。
そして、それは広場に集まっていた者達も同様であり、広場一帯が騒然とする。
「しかし、エーゼル、里には防護結界がある。連中も流石にそれを突破しての襲撃はできないだろう」
縋る様な里長の言葉であったが、エーゼルはそれを切って捨てる。
「連中は周到に準備を進めており、探知結界の外側から防護結界の内側へと穴を掘っていた!恐らくその穴から里の外周に火を放つ腹積もりだ!そして、穴があった以上人が通れる大きさの穴も掘られている可能性が高い!」
「何だと!?」
「連中はこの里の南側を中心に半円状に10の部隊を待機させて取り囲んでいた。我がその内の6つ程を西側から順に潰してきた。この首がその証拠だ」
「むう……」
エーゼルが掲げた生首、その兜に刻まれた紋章を見て里長が唸る。
「恐らくではあるが残った4つの部隊から東から南の辺りに火が放たれる。北西には150人程の手練れ集団が待機していた。今からでも手薄な西側から南方面に逃げれば多くの者が助かる筈だ。時間が無い、避難の開始を許可して欲しい」
「しかし……」
「里長、どうやら若様の言ってる事は本当みたいですぜ。俺は若様の意見に賛成だ」
悩む里長を見て、警備部の長が賛同の意を示した。
「俺はカルディア傭兵国の奴隷狩りを実際に見た事がある。連中は周到だ。時間が掛ければ掛けるだけ不利になる」
この集落に集まった者達はエーゼルのようにこの里で産まれた者達を除けば殆どが戦争の影響で故郷を失った者達であった。
その中には勿論、カルディア傭兵国の奴隷狩りで故郷を失った者達も多く居た。
警備部の長もその1人であっただけにその言葉は重みがあった。
「狩猟部も若君に賛同する。そのような危機を見落とした我々の落ち度でもある」
「農耕部も賛成。命あっての物種だしね」
「生産部も否は無い」
それを皮切りに次々と賛同の声が上がる。
しかし、
「神殿部は反対です!ようやく根付いた聖樹はどうするのですか!?」
神殿部の長から反対の声が上がった。
「放置するしかあるまい」
「な!?」
「あれだけ大きな物を運ぶ余裕は無い!それとも今から根を掘り起こして運ぶというのか?そんな時間的余裕は無いぞ!」
「ぐッ……!」
エーゼルの正論に押し黙らされてしまう。
「それに連中の狙いは我らの身柄だけだ。我らが近くに居ない方が聖樹にとっては安全かもしれん」
「……分かりました。そういう事であれば、神殿部も賛同致します」
渋々といった様子ではあったが、神殿部の長も賛同の意を示した。




