それぞれの戦い(エーゼル) 9
(敵は真正面から射るのでは軌道を曲げた所で反応する事の出来る強敵。幾本もの矢を集中して相手の手数を上回れば討ち取れるが、そんなのが100人以上。これは我でも分が悪いと言わざるを得んな)
逃げながら確実に1人、2人と敵の集団を静かに削って行く。
(だが、それは飽くまでも反応出来る状態であればの話だ。このまま続けてもジリ貧は必至。ここで勝負を仕掛けさせてもらおう!)
「ハッハァッ!!チマチマ削られたところで問題ねえぜ!!」
「そんだけ報酬が増えるってもんよ!」
味方の死に歓喜する狂気の集団は勢いを変えずに突き進み、エーゼルへと迫る。
3~4本の矢を一気に放ち、また1人が射抜かれて沈み、集団に呑まれて消える。
カルディア傭兵国の一団の表情には余裕があった。
何故なら、彼らはちゃんとエーゼルの矢筒に残る矢の数を確認していたからだ。
エーゼルの矢は確かに脅威だが、矢である以上限りがあるのは当然であるし、何より1人に対して3~5本消費して仕留めている現状では集団を削り切るよりも先に弾切れが訪れるのは明白であった。
それを理解していたからだ。
また1人矢に射抜かれて倒れたが、騎士達は嗤う。
「さぁ、とうとう矢が尽きたみたいだな。よく頑張ったが、これで終わりだなぁ!?」
追いかける誰かが声を張り上げる。
その声に追従して、聞いていて嫌悪感が湧き立つ笑い声が多量に響く。
「そうだな。終わりだ」
矢を射った姿勢をそのままに敵の一団を見据えてエーゼルは逃げるのを止めた。
それは諦めたかのように見えるが違った。
「貴様らがな」
と続けて瞬間だ。
『何?』と問う間も無く、集団の後方から途轍もない数の尋常ではない勢いの矢が驟雨の如く降り注ぎ始めたからだ。
しかも、集団の斜め後ろから。
ズドドドドドドドドドドドドッッ……!!!
まさか自分たちの斜め後ろから矢の雨が降り注ぐ等と想像もしていなかった騎士達が次々と飲み込まれていく。
会敵する前に空に向けて放っていた矢の数々は、風の精霊の協力で可能な限り高くまで運んでもらい、落ちる時は可能な限り空気による抵抗を減らして貰っている。
重力と抵抗の減衰により、その矢の1つ1つがとんでもない威力となっていた。
しかも、上を覆う森の木々に青々と生い茂る葉によってギリギリまで見えない攻撃だ。
エーゼルはそのように矢が降り注ぐ位置へと誘導していたのだ。
「盾だ!盾を頭上に掲げろ!」
後方から順に飲まれていたので真ん中より前に居た部隊は飲み込まれる前に反応が間に合っていた。
全員が盾を頭上に掲げて密集して半端ない威力で次々と落ちる矢を受ける。
「あがががが……!!」
物凄い衝撃の連続に盾の上から押し潰されそうになりながらも騎士達は何とか耐えていた。
だが……
「風の精霊達よ!我が魔力を糧に存分に舞い踊れ!」
エーゼルは真っ直ぐに弓を弾き絞り、その弓にキラキラと輝く光の矢が番えられる。
その光の矢はエーゼルから魔力を受け取り、活性化した風の精霊達であり、弾けだす瞬間を今か今かと待ち構えている状態。
「風精乱舞!」
バシュウゥゥンッ!!
弦の乗っていた精霊達は弦の勢いを発射台にして歓喜と共に飛び出す。
飛び出した精霊達は幾本もの光の矢となって矢の雨に耐える騎士達へと向けて殺到する。
騎士達は勿論その輝ける魔力の矢の存在に気付いてはいた。
だが、降り続く矢の豪雨の対処に手いっぱいで釘付けにされている状態では手の打ちようがなく……
上と横からの変速的な十字砲火に蹂躙される事になる。
(どうだ?)
矢の雨によって巻き上げられる土煙で視界が殆ど利かない程になる。
(今のでかなり削れた筈だ)
その手ごたえは間違いなくあったとエーゼルは感じていた。
(だが、問題は連中がどれだけ残っているかだ)
それでもエーゼルは油断などしていなかった。
敵影を確認しつつも魔力の回復を促すエルフ族特製の丸薬を飲み込んで、きちんと次に備えていた。




