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それぞれの戦い(エーゼル) 4

一度戻った時は門を使わなかったが、今回は事情を早急に伝える為にも正門から向かう。


「あ、エーゼル様。おかえり……って、その手にぶら下げているのは」


門番をしていた若いエルフの男は戻って来たエーゼルとその手にぶら下げていた人間の頭に気付いた。


その男が『何か?』と訊ねようとするのを遮って、


「取り急ぎ、警鐘を鳴らせ。そして、里の者達に祭事の準備の手を止めて広場に集まる様に伝達しろ。カルディア傭兵国の人狩り共だ。連中は既に里に襲撃を仕掛ける手筈を整えている。時間が無い、急げ!」


エーゼルはそう言った。


その真剣な様子から尋常では無い事態だと分かるというものだった。


普通だったら『子供の悪戯』と笑い捨てるところだが、門番の男はエーゼルがそのような幼稚な事をしないと知っていた。


それにエーゼルがぶら下げていた首が被っていた兜は間違いなくカルディア傭兵国の紋章が刻まれたものであった。


「はっ!了解しました!」


男は門の横に備え付けられた紐を引いて警鐘を鳴らせた。


風の精霊達の力を借りてその音は里の全域に拡散される。


滅多に鳴らされない鐘の音に里の者達は『何事か』と思い各々の作業の手を止める。


『緊急!緊急!各々作業の手を止めて至急広場に集まれ!事態の内容は上役が集まり次第エーゼル様より説明がなされる!』


門番の男はエーゼルの指示に従って、自らの声も里の全域に拡散させた。


「これで宜しいですか?」


「ああ。早急に行動してくれて助かった」


「いえ。こちらもこれが仕事ですから」


里の中でも若い衆は比較的ではあるがエーゼルの事を認めており、若さを理由に侮る事は少ない。


何故なら、若い衆はエーゼルがどれだけ努力してきているのかを見ていたし、何度となく年下の少年であるエーゼルに打ち負かされた経験があるからだ。


それにその真面目過ぎるぐらいに真面目で不器用な性格も知っていた。


だから門番の男も迅速に行動を起こしていた。


「ですが、問題はむしろこれからでしょう?」


「その通りだ」


里の上役……


長老衆と里長、そして各部門を取り纏める部門長これらの説得をエーゼルは今から始めねばならないのだ。


やる事は分かっているが、エーゼルとしては実に嫌気がさすことであった。


(部門長達と里長は恐らく大丈夫だろうが、問題は長老衆だな)


齢5000歳を超える長老衆。


言っては何だが、老害中の老害と言っても過言では無い自らの価値観こそ正しいと信じてならない究極の石頭集団だ。


「正直、思うんですけど、カルディア傭兵国の襲撃で長老衆に限っては全滅してくれた方が良いんじゃないですかね?」


「……我らの仕事は里の者を守る事だ」


その意見に関してエーゼルは本心から言えば実に同意であったが、それを言葉にはしなかった。


「我が事態の説明をしている間、周辺の警戒を頼む。何かあればすぐに知らせろ。敵は恐らく東と南側から仕掛けて来る」


「了解しました。東と南側に関しては特に注意を払っておきましょう」


「頼む。我は我の役目を果たしてくる」


そう言って、門を駆け抜けていくエーゼル。


それを見送った門番の男は、


「全く、あの年頃の子供に重荷を背負わせ過ぎだよな。俺達は……」


と溢していた。


10年程前に結婚してエーゼルよりも小さな子供が居る門番の男は、それを平然と押し付ける里の年寄り共と同じにはなりたくないという思いを持っていた。


もし仮に自分の子供がエーゼルと同じ境遇だったらと考えると胸が痛くなるものがあった。


それでも舌打ちこそしても文句も泣き言も言わず自らの役目を懸命に果たす姿は、どうにも痛々しい。


エーゼルは少しばかり口が悪いのだが、面倒見の良い少年で年下の者達からは慕われていた。


『忙しい』などと舌打ち雑じりに言いながらも年下の者達の世話を焼く姿は里の中でよく見られる光景だった。


彼の子供も世話になっていたし、当然エーゼルの事を慕っていた。


子供の辛そうな姿は見たくない。


だから、彼は自分の出来る事でエーゼルの力になると決めていた。


「少しでもエーゼル様の負担を減らしてやらないと。大人として恥ずかしい真似だけはしたくないからな」


次の戦場に向かうエーゼルを見送る門番の男もまた自らの戦場へと覚悟を決めて立つのであった。


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