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それぞれの戦い(エーゼル) 3

作戦の前倒しが指示された以上、今から潰しに行っても間に合わない公算の方が高い。


それに襲撃を警戒されている状態で襲うのはエーゼルであっても難しい。


先程は相手が準備を整える前だったからギリギリ間に合ったというだけだというのをエーゼルは理解していた。


(引き上げる前にどうやって里に火を放つつもりだったのか確認しておかねばなるまい)


里の周囲には物理、魔術両面を防ぐ防護結界が敷かれている。


探知結界の手前に待機していた以上、防護結界の事も知っている可能性がある。


(敵にはエルフに詳しい者が居るかもしれん)


そう思うには十分な要素が現段階でも見え隠れしている。


殺した連中の所持品を見る限り矢や油などは持っていない。


(となると魔術か)


周辺に注意を払いながら視線を飛ばす。


そして、あるものが目に入った。


(穴?)


連中が待機していた付近の地面に拳大の大きさの穴が幾つも空いていた。


(まさか……)


それを見てどういう手法なのか予測が立った。


予測が正しいかどうかを確認する為にも、即座に穴の中に風の精霊を飛ばして探査を開始した。


その結果……


(案の定か!この穴は防護結界の内側に続いている!)


里を囲う探知結界と防護結界は里を中心に半球状に展開されている。


つまり、地中にまでは対応していないのだ。


探知結界は防護結界の内側までは作用していないので穴を探知できないし、防護結界は大規模な障壁であるので効果があるのは結界の面のみ。


つまり、内側は完全に無防備だ。


(連中、この穴を通して火の魔術を放つ腹積もりだ!)


これで疑念はほぼ確信へと変わった。


襲撃する連中の中にエルフに詳しい者が居る。


(もしかしたら、襲撃の日取りも我々の祭事に合わせての事かもしれん。だとすれば、これは思った以上に厄介な事になりそうだ)


その事実に舌打ちしてしまう。


(奴隷狩りを進んでやっている国というのは伊達ではないという事か)


実に嫌な事であった。


(これは急いで里の者に知らせる必要がある。襲撃者の証拠を持って一度里に引き上げねば)


証拠品として部隊長の首を切り落として、その頭を持って行く事にした。


それにいつ敵がここに来るか分かったものではないので長居は危険というのもあり、エーゼルは即座に一時撤退を決めた。


(里に着いたら先ず状況説明、次に民の避難誘導、最期に防衛部隊の指揮とやる事が目白押しだ)


その事実が分かるだけに舌打ちしてしまう。


嫌にはなるがそれでもエーゼルは投げ出す気持ちはサラサラ無かった。


(我は我の出来る最善を尽くす。それだけだ)


敵の方が用意周到に準備を進めていた以上どうやってもある程度の被害は免れないだろう。


それをどれだけ減らせるかは、時間との勝負になるとエーゼルは確信していた。


(一番の問題は里の平和ボケした石頭共がどれだけ早く事態を飲み込むかだな)


エルフという種族はどうにも年功序列が付いて回る種族なので、ハイエルフであろうとエーゼルのように100歳どころか20歳も越えていない若造の言葉には耳を貸さない、まともに取り合わないなど日常茶飯事だ。


(下手をすれば敵の襲撃を待った方が話が早いまでありそうだ。流石に里に火を放たれては、我の言葉を事実として認めるしかないだろうからな)


そう思いはしたが、それで被害に遭うのは里の者……


その中でも特に弱い者達なのだ。


流石にそれは気分が良いものではない。


少しでも被害を減らせる可能性があるならば、そちらの道を選ぶしか無かった。


エーゼルとしては正直、嫌気がさす思いではあったが、それでも最善を尽くすのがエーゼルという男であった。


皮肉とも言えるが、15歳にも満たない少年が平均年齢1000歳を越える里のどの大人よりもある意味では一番大人だったという。

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