それぞれの戦い(エーゼル) 2
エーゼルによる暗殺は本人が思っていたよりも上手く行っていた。
既に4つの小隊を潰していた。
5つ目の部隊に狙いを定めた時であった。
(チッ……もう異変に感付いたか)
狙いを定めた連中が浮足立つのが見えた。
(何らかの手段で定期的に連絡を取っていたようだな……チッ、無駄に周到な事だ。感付かれようが関係ない。潰せるだけ潰す)
バシュッ!
バシュッ!
3本、2本と計5本を矢継ぎ早に射出。
放たれた矢は狙い通り5つ目の部隊の5人の目から脳を貫いた。
感付かれた以上は隠密性に拘る必要性が下がったので喉を射抜くのは止めた。
矢の節約も必要な事だ。
(火が放たれるまでは可能な限り潰す!)
里の周りを囲っていた部隊の半分を端から削る事に成功した訳だが、逆を言えばまだ半分も残っている。
探知結界のギリギリ外側に隠れ潜んでいる部隊は半円状に等間隔に囲っているので、隣り合う部隊と部隊の距離は170~180m程だ。
エーゼルは次の部隊を襲撃する為に移動を開始する。
「襲撃を受けているぞ!応答が無いのはここより西側の5つ!既に半数が落ちている可能性がある!」
6つ目の部隊の居る位置に放った風の精霊が声を運んでくれた。
「作戦の決行を前倒しにする!」
「宜しいのですか!?本隊の到着を待たずに……」
「馬鹿野郎!既に半数が落とされているんだぞ!?このまま本隊の到着を待っていたらこちらが全滅させられて作戦どころじゃなくなる!良いから急いで伝達しろ!」
「りょ、了解しました!」
移動しながら風の精霊の運んできた声を聞いて、エーゼルは思わず舌打ちをしてしまった。
(指揮官はあそこに居たのか。作戦の前倒しを指示する前に潰しておきたかった)
既に命令が下された以上、今更ではあるが舌打ちしたくもなるというものであった。
(だが、ここで指揮官だけは確実に潰させてもらう!)
バシュンッ!
バシュンッ!
走りながら3本、3本の連射。
それらの矢は全て指揮官のであろう男に集中させている。
それぞれの矢が異なる軌道で飛んで行く。
「む!」
指揮を任されているだけあって感が良いらしい、矢の風切り音を察知したようだ。
「フン!」
バシン!
カカンッ!
先行して飛んでいた3本の内2本が盾に弾かれて、1本が剣で打ち払われた。
(矢切が出来る手練れか!だが、甘い!)
先に撃った3本は水平射撃だが、後に撃った3本は上に向けて撃った曲射だ。
その3本は……
ドスッ!
両腕の肘と踏み出していた右足の膝の部分、鎧の隙間を縫うようにしてほぼ真上から同時に突き刺さった。
「グゥッ……!」
痛みで剣と盾を取り落とし、地面に膝を着いた瞬間……
ズドスッ!!
両目と喉の同時に3本の矢が突き刺さった。
追い打ちで更に3本を放ったエーゼルの矢だ。
徹底的に殺しに掛かっていた。
一瞬で脳を潰された指揮官は無論即死であった。
「ぶ、部隊長!?」
突然、指揮官を殺された部隊から動揺の声が上がる。
ドス!!
その隙を逃がすエーゼルでは無かった。
4本同時射撃。
全員の目を射抜く。
「これで6つ……」
(そろそろ潮時だな)
10ある部隊の半数以上を潰せただけ上出来だと言えたので、エーゼルはそう判断していた。