それぞれの戦い(ミラフィア) 3
走り続けている内に段々と足取りが不安定になってきて、ミラフィアは何度も転びそうになりながら、葉や枝に当たりながらも駆けた。
だが、それにも終わりは訪れる。
「わ!?」
これまで何とか耐えてきたが、とうとう足を引っかけて転んでしまった。
「うう……」
痛い、苦しい、辛い。
それでも、立ち上がらなければ死んでしまう。
その思いが体力的には既に限界のミラフィアを立ち上がらせた。
狼達はミラフィアにすぐに飛び掛からず、じりじりと包囲する形を整えていた。
今から逃げても襲われる。
それが分かってしまってミラフィアはせめて背後を取られない様に転んだ地点の近くにあった大木の傍らまで気合で移動してその背中を預けた。
「グルルル……」
最後まで残った3頭がミラフィアを半円状に包囲して、じりじりと距離を詰めて来る。
ミラフィアは視線を向けることで牽制していた。
視線を切った瞬間に襲い掛かって来るのは目に見えている。
狼達に視線を向けたまま、ティアリエから貰った道具入れに手を突っ込んで何かを手に取る。
これまでも掴んだものが何か確認しないままに無我夢中で放り投げていた。
確認しているだけの余裕が無かったのだから当然だ。
ミラフィアと狼達の距離が15m、10mと少しずつ距離が近付き、その距離が5m……
一息で飛び掛かれるだけの距離になった瞬間だった。
タイミングを見計らっていた狼達がグッと後ろ足に力を込めるのが見えたその時、
ドドドッ!
狼達の後方からその頭部へと矢が精確に突き刺さった。
「!?」
急所を射抜かれた狼達は一瞬でその場に崩れ落ちる。
突然の出来事にミラフィアは驚きつつも矢が飛んできた方向に視線を向ける。
「おう、おう、おう。危ない所だったなぁ?お嬢ちゃん」
飛んできたのが矢だったのでエーゼルかと期待した。
だが、違った。
鈍く艶消しのされた鎧を纏った騎士が4人。
その姿を見た瞬間、背筋にゾクリとした悪寒が走るのを感じていた。
魔物とはまた違う生理的に嫌悪感を覚える粘っこい何かを感じた。
森の精霊達もその騎士達が持つ悪意を感じ取っていたみたいで、全力で警鐘を鳴らしている。
「森の中が何やら騒がしいと思って偵察に来たら、はぐれエルフのガキとはツイてますね」
「耳が長いって事はハイエルフか」
「いや、瞳の色がエルフの系統では出ないものがある。ハーフだな」
「ハーフって事は値が下がりますね」
「いや、そうとは限らんぞ。あの赤色の虹彩は魔族によく見られるものだ。魔族との混血……しかも、ハイエルフの特性持ちのハーフエルフとなると極めて希少だ。オークションに出せば好事家共が挙って値を吊り上げるぞ」
「そりゃ良い!俺達も遊んで暮らせますね!」
そう、その4人の騎士達はカルディア傭兵国の騎士達であった。
しかも、その中には見る目を持った者も居て、ミラフィアの素性を一目で大まかに看破していた。
「狼共に襲われて傷物になっていたら値が下がる所でしたね。良かった、良かった」
彼らが狼達を射殺したのはそれが理由であった。
その美しさと長い寿命を持つエルフは性奴隷として非常に人気がある。
人間の寿命から見れば一生美しい姿のまま抱けるのだ。
その需要は大きい。
消えない傷を負ってしまうと大幅に値が下がってしまうからそれを未然に防いだ。
ただ、それだけであった。
「さて、お嬢さん。大人しくしてくれるなら手荒な真似をするつもりはない。大人しく我々に着いて来て貰えないかね?」
狼達の脅威は去ったが、今度は別の脅威がミラフィアに迫り、一難去ってまた一難という有様であった。




