それぞれの戦い(ミラフィア) 1
エーゼル達が行動を開始した中、ミラフィアもまた戦っていた。
戦いとは言っても敵を打ち倒す類のものではない。
自らの生き残りをかけた生存という原初から続く類の戦いだ。
いつものように森で果実の類を取りに出歩いていたミラフィアだったが、いつの間にか狼の魔物の群れにその存在が捕捉されていた。
いつもだったら絶対に気付かれないのにその日は違った。
明らかにミラフィアに対して殺意を向けていたのだ。
それに気付いたミラフィアは困惑しつつも抱えていた果実をその場に捨てて、即座に逃走を開始した。
それは実に適切な判断だった。
ミラフィアはハイエルフの母親と魔族の一種である夢魔種の父親の間に生まれた世界的に見ても例の少ないハーフエルフであった。
母親と同じくハイエルフの特徴を強く引き継いでいるが、エーゼルのように身体能力も含む全ての能力が一般的なエルフと比べて高いと言う訳ではなく、精霊との親和性にのみ特化したタイプであった。
しかも、1つの属性の精霊との親和性に特化した一点特化型のタイプだ。
彼女が特化しているのは植物を司る精霊との親和性であった。
普段、森に出る時は森の木々に宿る精霊達の協力を得て、自らの気配や匂いといったものを周囲に生える木々と同化させるという手法で魔物の脅威から逃れていた。
魔物達からすれば木々と同じ気配しかないので触れられる程の距離であっても気付かれない。
それがミラフィアの持つ強みであった。
当然、ミラフィアはいつもと同じように森の木々と気配を同化させていた。
にも関わらず確実にその存在を補足されていたのだ。
ミラフィア自身としては初めての経験に訳が分からないという思いであったが、それ以上に本能的に来る恐怖の方が大きかった。
萎縮しながらも咄嗟に初歩的な風魔術を起動させて加速する。
もし仮にティアリエ達がそれを見ていたら『大したもの』だと手放しで絶賛していただろう。
魔術は精神の状態によってはまともに起動しない事がある。
特に恐怖というものは魔術の発動を強く阻害する類の感情なのだ。
その中で初歩的なものではあっても十分な効果持つ魔術を起動できたというのは、本当に凄い事なのだ。
ミラフィアを捕捉していた狼達は当然逃げるミラフィアを追って走り出す。
魔術によって加速していても幼いミラフィアと比べれば身体能力差は圧倒的の一言でどんどん距離が詰まっていく。
一番先頭を駆けていた狼がミラフィアの背後から飛び掛かろうとしたタイミングで、ミラフィアは無我夢中でティアリエから貰った『逃走用アイテム』と取り出していたが、緊張のあまりポロっと落としてしまった。
だが、それが功を成した。
ドンッ!!
ミラフィアが落としてしまった所を起点に地面から壁が生えた。
縦横3m、厚さ50cmぐらいの正方形の板状の壁だ。
運悪く飛び掛かっていた狼はその壁の突き上げを腹に喰らって打ち上げられ……
「ギャインッ!!?」
壁の手前に出来ていた恐らく壁と同じ体積ぐらいであろう横3m、縦1m、深さ1.5m程の穴の中に頭から落ちて首の骨が砕けて絶命した。
打ち上げの勢いと穴による5m以上の落下は狼の首の骨を砕くには十分な威力だったようだ。
その光景は狼達を警戒させるには十分な光景であった。
歯牙無き相手と思いきや、殺せるだけの手段を有している。
それを理解した狼達は闇雲に追いすがるのを止めて、少しだけ速度を落とした。
ミラフィアの落としたアイテムはティアリエの語っていた通り、本来は足止め用の非殺傷のものなのだが……
今回は運良くというか運悪くというか偶然が重なって正規の使用法と違った形になり今回のような結果を生み出してしまっただけである。
ちなみに、ミラフィアは逃げるのに必死でそれを見ていなかった。
そんな余裕が無かったので『何故かすぐ後ろまで迫っていた気配が無くなった』ぐらいにしか感じていなかったという。
予期せぬ経験値の取得によってレベルが上がっていたミラフィアはいつもより体が軽い事にも気付かないままひた走った。




