それぞれの戦い(エーゼル) 1
門番に見付からないよう塀を越えて里を飛び出したエーゼルは高い木に登り、大きな枝の上に立った。
「森に住まいし風の精霊達よ。我らに害成す悪辣たる気配を捜しておくれ」
そして、風の精霊に呼び掛けて探知を開始した。
里の周辺には防護と探知の結界が張られているがそれよりも外の範囲をだ。
エルフが人間の潜入に気付いていないという事は里の探知領域から外れているという事だろう。
そう判断しての事だ。
エルフよりも妖精としての因子を強く持つハイエルフは精霊と言葉を交わす事が出来る。
そして、強い縁を結ぶ事が出来た精霊とならば契約を交わして、協力を仰ぐことが出来るのだ。
ハイエルフの中でも高い能力を持って生まれたエーゼルは契約無しでも簡単なものであれば精霊からの助力を得ることが出来た。
それを利用して周辺にいた風の精霊達に探査を頼んだのだ。
エーゼルが相手の嘘を見抜く術を有しているのは、エーゼル自身の能力ではなく風の精霊の能力である。
風の精霊は空気や音に鋭敏な感覚を有しており、声から相手の言葉に嘘があるかを見抜けるのだ。
エーゼルは精霊と感覚を同調させる事が出来るので風の精霊を介して相手の嘘を見抜けるという訳だ。
今回は索敵に精霊の力を借りている。
(見付けた)
周囲に居る風の精霊達に対し手あたり次第協力を頼んだので、並列処理により数分の間に索敵は完了する。
里を中心に半径500m程の範囲を囲う探知結界の僅か10m程外を半円状に囲むように5人一組の部隊が等間隔で10。
1km程北西の位置に150人程の一団の存在が確認できた。
里を囲んでいる一団は火を放ち逃げ場を限定させる為の部隊で、少し離れた位置にいる一団は火の手を合図に正面から突っ込んでくる襲撃隊だろう。
事前に聞いていた内容と一致する布陣だ。
(この視界の悪い森の中では里を囲んでいる連中は互いに他の集団を確認できない筈だ。気取られる前に数を減らす)
敵の配置を確認したエーゼルは即座に移動を開始する。
一番近くにいた5人組から300m程離れた位置にある木の上に移動したエーゼルは矢筒から矢を取り出して、弓に番えた。
その数4本。
5本の指全てを使って矢羽を挟んで弦を弾き絞っている。
「風の精霊達よ。我が矢を導き給え」
ビンッ!!
仰角を30度ぐらい上げて矢を放つ。
そして、続けざまに3本、3本と仰角を15度、0度と変えながら連射。
エーゼルによって放たれた矢はそれぞれが違う軌道で飛び、森の木々に一切当たることが無かった。
まるで矢自体に意思があるかのように普通では無い軌道を描いて突き進み……
ドスッ……!
隠れ潜んでいた5人組の眼窩と喉に各2本ずつ、計10本の矢が同時に突き刺さった。
目から脳を貫かれて体の制御を失い、更に声を漏らさせない為に喉を射抜かれた5人は声を上げる事もできないまま一瞬で崩れ落ちる。
(先ず1つ)
そんな神業としか言えない射撃を行ったエーゼルは淡々と次の5人組へと狙いを定めつつ移動を開始する。
純粋な弓の技術でそれを行ったのならば正に神業であるが、エーゼルの射撃には勿論タネがある。
風の精霊に手伝って貰い、射線を制御していたのだ。
エーゼル自身の弓の技量は決して低いものではないが、精霊の補助無しに今のような芸当は到底出来ないレベルである。
問題となるのはいつ異変に気付かれるかであった。
時間との勝負になるので喜んでいる暇など無く、エーゼルは努めて冷静でいるように留意しながらも急いでいた。
(出来れば放火部隊を半分は削っておきたい)
全員に気取られる前に全滅させるのは恐らく不可能だと悟っていた。
里を囲う探知結界の範囲がそれなりに大きいので1部隊間の物理的な距離が最大1km以上になる。
(この感触なら最低でも2つは間違いなく気取られる前に消せる。だが、3つから先はどうなるか……)
出たとこ勝負も良い所だった。
だが、里の被害を減らす為には絶対にやっておかねばならない。
結果、敵の行動が早まる可能性は大いにある。
襲撃を気取られた時点で計画を前倒しにするかもしれない。
それでも敵の準備が万全の状態で動かれるよりかは遥かにマシだと判断して
エーゼルは行動を起こしていた。
そうして、エーゼルの戦いが静かに幕を開けた。




