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親友

「うそでしょ……」


まみから廣瀬さんとの一部始終を聞かされた。あの廣瀬さんが女に声をかけた?しかもカフェに連れ出した?いくら心配したと言っても自分から率先してそんな事をするわけがない。


廣瀬さんには隠れた優しさがある、それは認める。でもアノ場合は私を呼ぶはずだ。変な言い方だけど自分の手を汚して、なんでもない他人を助ける人じゃない。しかも相手は女だ。


(まみだから?)


「私もホントびっくりだったよぉ」


「あり得ないよ、天と地がひっくり返ったとしてもあり得ない」


「でしょー!人間の目の中が光ってるんだよ!アニメみたいにキラキラ~って!」


「そっちかいっ!」


「ほえ?」


「私が言ってるのは廣瀬さんの行動だよ。廣瀬さんってめちゃくちゃモテるけど誰も寄せ付けないって噂だよ。仕事以外で女の人と話しているのは見たことないし、ましてや笑うなんて……マジあり得ない」


「うーん、私もそう思うんだけど。でもとっても優しい目をしていたよ?びろろーんってひろげても怒らなかったし」


「なんて恐ろしい事を……」


まみの髪の毛をクシャクシャしたり、自分の顔を触らせたなんて、どう考えても私の知っている廣瀬さんじゃない。廣瀬さんに関わっている全ての人が答えるだろう『あり得ない!』と。


「でね、私のことを『百面相』とか『妖怪ボケ子』とか呼ぶんだよぉー」


あり得ないような行動をなぜ廣瀬さんがとったのか?なんの意味もなくそんな行動をする人じゃない……


「花南?どうしたの?」


「えっ?あっ、うん……これは間違いなく何かあるね」


「何かって?あの瞳の中のキラキラ?」


「取りあえずソレは忘れなさい、気のせいだから。眩暈がしてチカチカしちゃっただけだよ」


まみは納得してない様子だったが、人間の目の中に別な世界があるなんて、それこそあり得ないから!この子は時々思考回路が通常じゃなくなる、ほんとに病院に連れて行きたくなるわ。私はヤレヤレと肩をすぼめて苦笑した。


「ねぇ花南?」


まみが言いにくそうな顔で、だけどすごく心配そうな顔で私を見つめている。


「なに?」


「んとさ、黒澤くんとホントに何もない?なんか二人ともギクシャクしていて変だよ?」


「えっ……」


「もし、もし花南が悩んでいるんだったら聞くから!一人で悩まないで?あの旅行の時に言ってたじゃない、仲間っていいもんなんだねって、知らなかったって……」


私がずっと一人で生きてきたのを知り『これからは私がいるから、私達仲間が一緒だから』、あの時まみはポロポロ涙を流して言ってくれた。一人ぼっちで友達もいないような可哀そうな子ではなく自分の心の問題だと説明したけど、まみはずーっと泣いてたっけ。


いつも私に甘えてくっついてた。だけどそれは私を何とかみんなの輪の中に入れようとしてくれていたんだって気付いてた。この子は本当はとても芯が強くて自分をしっかり持っている、人の痛みを自分の事のように捉え、そして差別なく無償の愛を誰にでも与えることができる子。猫と話ができて、瞳の中に別な世界があるとか突然言い出す変な子だけど……


(かなりヘンテコだけどね)


そっか、全て私にないものをまみは持っている。だから私はこの子に惹かれたのか。気が合うとか、一緒にいて楽しいとかそんな簡単な事じゃなくて。ちょっと大げさな言い方だけど、互いの魂が呼び合い結びつき出会うべくして出会った相手。自分の全てをさらけ出せる、信頼し合える友達ってこういう事だったんだ。


(私はホントに知らなかったんだな、人と人のぬくもりの大切さが)


「花南?」


泣きそうな顔して、心を閉ざさないでって必死になって問いかけている目。本当に心配していたんだろう。何の期待もせず淡々と無表情の仮面をかぶって生きてきた、それが心地よいと思っていたから。でもこれからは……


「実はさ……」


私は黒澤との一連の出来事を話し出した。まみは黙って最後までウンウンと頷きながら聞いてくれた。まみに話したから解決するわけじゃない、だけどまみに話すことによって自分の心の中の、何か重たかったモノが軽くなっていくのを感じた。


「そっかー、花南は桃ちゃんの事が気になっているわけじゃなかったんだ」


「全然気にしてないってわけじゃないけど、桃ちゃんがいるから黒澤を好きになれないって意味とは違う」


「私はてっきり桃ちゃんがいるから自分の気持ちを表に出せなくて、苦しんでいるのかと思った」


「そんな乙女心は残念ながら持ち合わせておりません」


正直、桃ちゃんを悲しませたくないという想いはあった。だから黒澤が私をどう見ていようと受け入れるわけにはいかないと思っていた。でもどう考えても黒澤と恋をする自分が想像つかない。


(好きか嫌いかで行ったら好き、でもそれ以上の、愛という感情はない)


「だけど黒澤くんは花南のこと好きなんだと思うよ?秋月君たちもそう言ってた」


「私にとって黒澤はいい同僚であり仲間、恋の対象じゃない。これが全然関係ない他人だったら気にもしないんだけど……」


だよねー!告白なんてされたら断るの気まずいもんね、わかるわかる!まみはウンウンと腕組しながら頷いている。なんだかその仕草が可笑しくて、何でもないことなのに、私は笑い出してしまった。


「なに?私なにかギャグ飛ばした?」


「あははっ!まみは存在そのものがギャグだわ」


「ひどぉーい、花南のばかぁ」


あはははっ!二人で笑いだしたら、最後は何に対して笑っているのかわからなくなり、笑っていることに笑って、お腹を抱えて二人で笑い続けた。


笑っていたら、黒澤に対して過敏に気にしすぎていた自分がバカみたいに思えてきた。アレじゃ逆効果だったわ。黒澤を友達として思いやるのなら、今まで通りにしているのが一番なんだ。


「よしっ、明日からまた黒澤を虐めまくるぞー!」


「えぇっ!暴力はダメだよぉ、あははー」


それにしても廣瀬さん……

これから何か起こりそうな予感がするのは、私の気のせいだろうか。

まみが悲しい想いをしなきゃいいけど。


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