11話
その頃、別の部屋では密かに呼ばれた医師が頭を悩
ませていたのだった。
「御当主様、これではもう手の施しようがございま
せん。化膿している部位を切りとって縫合し、命
を優先させるべきでございます」
「それでは男としては使い物にならんだろう?」
「申し上げにくいのですが……もう、すでに手遅れ
かと……」
「それを治すのが医者だろう?高い金を払っている
のだ?治せないとはいうまい?」
「……申し訳ございません。わたくしどもにはどう
しようも……」
「ちっ、仕方ない。連れて行け!」
ファールマン子爵は医師を追い出すと兵士に新たな
指示を出した。
「この事を口外されないように始末しておけ」
「はい、かしこまりました」
慌てる医師に目もくれず、神殿へと手紙を出す。
「お待ちください、せめて切除と傷の縫合をなさら
なければ患者が…」
「煩い、さっさと連れて行け」
聞く耳も持たないとはこの事だろう。
ルベライトの治療はされぬまま放置される事になっ
たのだった。
唯一の救いはメイド達によって清潔にされ今は硬い
床ではないという事だろう。
体力の落ちたルベライトには、自力で逃げることも
起き上がる事さえもできないほどに衰弱していた。
毎日のように全身を鞭で打たれ続けたせいでまとも
に食事も喉を通らなかったのだった。
真夜中になるとルベライトの部屋に意外な訪問者が
あった。
それはこの屋敷にとどまっているインペリアルトだ
った。
「おい、起きろ。話がある……おい、ルベライト」
「………」
部屋を見つけるのはさほど苦労しなかった。
なぜならありえないほど質素な食事の皿を嫌々運ぶ
メイドの後をつければいいのだから。
そして、たどりついたのが、この一番奥の隅にある
部屋だった。
埃が少し溜まっていて、しっかり掃除されているよう
には見えない。
まるで物置部屋のような暗い部屋だった。
そこに寝かされているルベライトは青白くまるで死ん
でいるかのような顔をしていた。
「おい、聞こえないのか?」
身体を揺すっても返事はない。
それどころか、隅に置かれた食事にも手をつけた形跡
すらないのだった。
「これはやばいんじゃ……」
絶対にあの当主の事だ、何かにつけて難癖をつけて
きかねないのだ。
今までの先入観を全部捨てなければならないと思い
直したのだった。
家でこんな仕打ちをされて育ったのなら、入学当初
の行動も納得がいく。
親の指示だったのだろう。
そう思うと、可哀そうな奴だったのだ。
「ルベライト、俺が救い出してやるからな」
何を思ったか、インペリアルトはタンザナイトへと
手紙をしたためたのだった。




