54話
黒き獣は苦戦を強いられていた。
森の奥の奥。
誰も近づかない場所にひっそりと眠っていた。
お腹が空くと近くにある村を襲って腹を満たしていた。
そんな時、外が騒がしくなっていた。
何やら人間が騒がしく叫んでいるようだった。
あまりに悪さばかりしていたせいか、黒き獣は数十年
前に魔術師に封じられてしまった。
だが封じられた身体は動かせずとも分身を森へと放つ
事は出来る。
狼の姿の分身を近隣の村へと放った。
そこで食べたモノは本体にもリンクしている。
だから、食事には困らなかった。
そして今日、どういうわけか人間が黒き獣の封印を
解いたのだった。
「おい、聞いてるのか!この化け物!」
『我を起こしたのは誰ぞ…』
「俺様が起こしてやったんだ、俺の言うことを聞けよ」
『……』
「この下に村がある。そこにいる人間を食らえ!!
無惨に食い散らかせよ!これであいつらは退場だ!
ざまぁーみろ!貴族のくせに平民なんかに味方する
からだっ!」
ごちゃごちゃと何か言っているが、食料が何を言おう
とも…問題ない。
牙を剥くとひとおもいに齧り付いた。
すると、泡のように人間の体はいきなり消えてしまっ
たのだった。
『食事が……消えた……』
スンスンと鼻を鳴らすと、もう5人ほど食料が来ている
らしい。
大きな巨体を久々に伸ばすと大声を上げた。
匂いは2と3……。
少し離れているが側の村の方からした。
確かこの前分身体を放って食べ終えた村の方からだった。
人間はどこかから湧いてきて知らぬ間に増える生き物
らしい。
いくら食べても、食べ残しておけばいつかは増える。
また……食べれる。
黒き獣は牙を剥くと喜ぶように走り出した。
さっきは食事が食べる前に消えてしまったが、今度は
もっと弄んでから食べよう。
そう期待しながら瓦礫や半壊した家が多い村へと来た
のだった。
そこは前に来た時と違って、何か燻してあるのか視界
が悪かった。
臭いも藁を焼いた臭いが充満している。
人間が隠れている事はわかるが、正確な位置が分から
ない。
だが、それでも関係ない。
夜目の効かない人間は獣の玩具でしかないのだった。
村に一歩踏み出すと、ガチャンッと何かに躓いた。
『なにぞ……これは…』
金属でできたトラバサミと言われる動物を捕まえる罠
だった。
分身体が数匹この罠に引っかかった事があるから知って
いる。
忌々しい罠に牙を立てようとした瞬間。
どこからともなく水の球体が飛んできた。
チャプンっと顔を覆うその球体は、ブルブルと首を振
ても取れなかった。
『なんじゃこれは……息が……できぬ…』
混乱する間もないまま、足元に人間が姿を見せた。
罠にかかっていない足を攻撃してくる。
卑怯な!
爪を立てると何度も攻撃をしたが全部かわされて
しまった。
苛立つ黒き獣は次第に息が苦しくなってきた。
立っているのもやっとになるほど、フラフラにな
ってきた矢先、攻撃していた足も罠にかかってし
まったのだった。
『おのれ……餌の分際で……』
怒りに任せて暴れるが、その間に足元の罠が緩ん
だと喜ぶ前に身体にまとわりつく風と土の魔法。
大きく鋭い岩が頭上から降ってくると身体中に
突き刺さったのだった。
黒き獣は耐えきれず悲鳴を上げたのだった。




