51話
シトリンはルベライトと別れてから、村の周辺を
探索していた。
まるで最近まで暮らしていたかのような気配がする
その村には誰一人として人はいなかった。
「少しでもルベライト君の足を引っ張らないように
しないとなぁ〜」
シトリンはルベライトに助けられてばかりで今度こそ
彼の力になりたいと思っていたのだ。
調べれば調べるほどおかしな点が増えていく。
家の中はまるで、食事でもしようかとしているかのよ
うに机には割れた食器が散乱している。
どこの家庭でも、状況は同じだった。
人だけが消えているのだ。
ところどころにある黒い染み。
それは椅子や通路。
そしてドアの前にもいくつかできていた。
「夕食時に襲われた?」
家族が揃って食事をするのは夕飯だけだからだ。
農村では朝は早い。
各自が起きて各々食べて出かける。
だから、一緒に揃って食事をするのは夕飯しかない
のだった。
そして、その時間に魔獣が村に来るとしたら?
シトリンはすぐに飛び出した。
太陽の位置は少し沈みかけたところだった。
「急いで知らせないと……」
飛び出したところで、ハッとして振り返った。
「おいおい、平民が一人だぞ?」
「守ってくれる貴族様はどうしたんだ?」
「見捨てられたか?」
「あのルベライト・ファールマンも落ちぶれたもん
だよな〜?平民と組むなんてよ〜」
そこにいたのは前々から嫌がらせをしてくる貴族
の子息だった。
ルベライトのこともあまりよく思っていないよう
だが、それでも同じ貴族に手を出すことはしない。
そんな卑怯な人間なのだ。
「平民、平民って、君達だって、その平民のおかげ
で生活できてるんでしょ?ルベライト君ならそん
な人を見下すような事は言わないよ」
「おい、この生意気な平民にわからせないといけな
いよな?これも貴族の勤めってやつ?」
シトリン一人に、騎士科の生徒と魔法科のコンビは
逃げられないようにと両サイドを塞いだのだった。
ジリジリと距離を詰めると、騎士科の生徒は剣を抜
いた。
「おい、痛い目にあいたくなかったら、土下座しろ。
それと腕のリングを外せ」
「僕は間違った事など言ってない!それにこの中では
リングを絶対に外さないようにって言ってたのを聞
いてなかったの?」
「チッ……おい、腕ごと落とせ!」
「いいのか?レッドになったら……」
「大丈夫だ。命の危険になるまでは転送されないか
らなっ」
まるで何かを知っているような口ぶりだった。
シトリンはすぐさま魔法を行使すると辺り一面にウ
ォーターボールを連発した。
目眩しの効果もあるが、連発する事で霧が発生して
視界が悪くなるのだ。
シトリンは戦闘には向いていない。
だから、視界を悪くして逃げるつもりだった。
だが、相手の相性が悪かったとしか言いようがない。
一気に風が巻き上がると視界は晴れる。
「なっ……」
「みーつけた!」
すぐに駆け出すシトリンにこれみよがしに風の刃が飛
んできたのだった。
「うわぁっ!!」
避け切れずに地面に転がると、至るところに切り傷が
ついていた。
「しっかりと調教してやらないとな」
本当に貴族とは性格が歪んでいると思う。
ルベライトも然り。
それでも、それでも…。
「俺はそこまで腐っちゃいないけどな!」
シトリンと貴族の間に大きな土壁が迫り上がってきた。
「なんだよこれ」
「俺が知るかよっ、まさか……」
ルベライトが居ない時を狙ったのだろうが、あまりに
派手な事をすれば誰でも気づく。
ルベライトが剣を構えると一気に距離を詰めた。
風魔法でスピードを上げるとシトリンに剣を向けてい
た生徒へと詰め寄る。
驚愕して固まっているところを思いっきり突き飛ばす。
後ろで杖を構えている方にも牽制する為に拳だいの礫
を放つ。
軽く放った魔法だったが、少し魔力の加減を間違えた
らしい。
人間の倍サイズの岩が魔法科の生徒を押し潰したのだ
った。
ズシーンッと大きな音を立てると、もう一人の生徒は
ただ見ているしかできなかったらしい。
足がガクガクと震えている。
「あ〜、加減間違えたかも」
「ルベライト君!」
「シトリン、大丈夫か?」
「うん。また助けられちゃったね」
「そんな事はねーよ。それと、怪我は平気か?」
ルベライトに睨まれると剣を握ったまま走り去って
いった。
さっきの岩に潰された生徒は危機的状況と判断され
ると、即座に消えたのが見えた。
きっと気絶はしても怪我はないだろう。




