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原点

あの時の長瀬のことは大きなダメージになった。


『もう二度とこんな思いをしたくない』

この思いが僕の原点であり、長瀬との西高祭で一緒にいた時の気持ちが基準点なった。

失恋することは怖くなくなっていた。それよりも、失恋以前の『自分の思いを伝えられない』ほうがよっぽど怖いことだと痛感していた。


この経験もあってか、大学生や社会人になってから合コン後や1~2回のデートでお互いの気持ちを交換するようになった。

これが大人になったということなんだろうか。


社内の同期でフランス人形のように美形で女優のような知恵とは婚約までしていた。

知恵と別れてすぐに取引先で友人でもある絹子から「仲良くしよ、私たちきっと上手くいくから」って言ってもらえた。

その絹子とも数か月でお別れし、絹子との交際に反対していた証券会社の担当者でお店のアイドルだった三砂緒ちゃんでも『私たち・・・あの時に付け合えば良かったのに・・・』って言ってくれた。


美容師の卵だった史恵とはずっと一緒にいるつもりだった、史恵がいなくなりバイトの応募してきた郁子ちゃんはそれから心の支えだった。

いつもケンカばかりしていたくるみは隠れ仲良しだったことが分かった。

付き合うのは夢のようなフードル(風俗界のアイドル)の沙良こと里江も短かったけど恋人だった。そして、人妻ではあるが波留のように美形の涼葉ともお付き合いとなった。

いったい何人と付き合ったのか両手両足で数えることが出来なくなっていた。

でも、逆に「彼女」、「彼女候補」もしくは「異性として扱ってくれる女性」以外の女性との接し方は分からなくなっていたかもしれない。

同僚の河内さんがまさにこれだった。


河内さんはあの長瀬以来のどうして良いのか分からない人と思っていた。

ただ、冷静に振り返ってみるとあの時の長瀬は最後に嫌悪感たっぷりの目と口調で「ふーん、誰でも好きになるんじゃない」と突き放した言葉だったのだが河内さんの無関心さよりよっぽど救いがある言葉だったことに今更気が付いた。


誤解から生じた「嫌い」なら、長く険しい道だけど丹念に紡いでいけばいつかは辿り着く。まぁ、普通は途中で諦めるから別れたり、「片思い」という言葉で終わらせるのだろうけど、あそこで絶望した僕が馬鹿だった。

「無関心」の人を相手にあそこまで冷たく言うことは逆にしないだろう。

本当に無関心なら面倒だからなにも言わないか、適当に相槌を打てばよいのだから。


でも、河内さんで思い知ったが無関心さからはなにも産まれないっなって。

よく、好きの反対語は「嫌い」でなく「無関心」と言うけれどそれを体感した。


だから・・・

河内さんのことだからきっと僕の言ったことはちゃんと聞いてないし、そもそもあの人自身が言ったことも忘れることは分かっていた。でも、涼葉がいなくなったあの時はそれでもいいやとすがる気持ちがあったけど、実際にお昼ご飯を渡しても(会社側が)破棄することやもらったことを忘れることが平気で、その一方で僕に普通に話し掛けられる彼女の「無関心」さはかつての好きな人たちへの激しい後悔と懺悔への気持ちと結びついた。


だから・・・

まぁ、僕の器量が小さいからなんだろうけど・・・

もう、ただの同僚としても僕から河内さんに話し掛けることは出来なくなった。

少なくとも、あの人がきちんとその認識がないうちは。

でも、どうせ≪どうせって言葉を発する自体が既に僕の心を蝕んでいる≫あの人は僕にとってはとても重要なことや些細なこと(いや既に忘却しているのだから記憶にないもの)を言葉にしたり思い返すことはないだろう、少なくとも表向きにはその一生において。


仮に記憶にあったとしても頑固で強がりな彼女は「そんな人とは関わらないもん」って心の中で呟くか毒づくだろう。

長瀬が「あんな奴」って言っていたように。


良くも悪くも土足で心の中に踏み込んで来る人だった。

勝手に土足で入って来るなら・・・

せめてノックぐらいしろよなって思った。


でも、涼葉をほんの少しの間だけど気を紛らさせてくれて長瀬のことも思い出させてくれた。それだけでも、河内さんとは会えた価値があったかもしれない。

それにしても、あの人の過去の男性遍歴を知ってみたい気持ちはあるにはある。

どんな風に別れてきたのか。学習能力はあったのかなって。

そこは、週刊誌的なそして野次馬的な興味だけど。

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