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パピー

他の人の感覚は分からないけれど、『あの子って可愛い?』と聞いてくるのでなく『可愛いだろ』って断定調で言うってことは丹羽って長瀬のことが好きなのかなとその時は思ったけど、まぁその時はあまり追求せずにそのまま終わった。


西高は45人クラスが10クラスの中堅進学校だが、1クラスの男子22~23人の中で難関大学を目指すのが5~6名、中堅大学を目指すのが10名ぐらい、最終的には大学に行くものの高3の夏休みまで部活中心にいわゆる『青春をエンジョイする高校生活』を送るのが7~8名みたいな感じだった。


僕たちはそのエンジョイ組を『血の気軍団(チノケグンダン)』とやや揶揄した言い方をしていた。別に仲が悪いわけではないけど、彼らはラグビー部とか激しいスポーツ部に所属している者が中心だったので。

僕や丹羽は柔道部だったけど、まったく熱血漢ではない。同じクラスに柔道部の副主将加藤もいたけどストイックな彼は「血の気軍団」で部活ではともかく普段は教室で話すことも少なかった。


6月頃のこと。

丹羽が今度は長瀬のことでボヤいてきた。

なんでも、最近長瀬は血の気軍団の江上とよく話すようになっていて、全然話し掛けてくれないと。


そこで、ちょっと注意して見ていたらどうも江上が一方的に長瀬に話し掛けてきているだけで、ただ長瀬はそれに合わせているだけのように感じたので丹羽には

「大丈夫だよ、そのうち長瀬は戻ってくるよ」

と半分適当に半分本気で返していた。

それにしても、丹羽って案外嫉妬深いというか女々(メメ)しいとこあるなぁとは感じた。後に彼のこの性格によって僕と緊張関係が走るのだが、この時はまだそんなことになるとは当然思っていなかったので、こちらもは楽しんで野次馬的に見ていた。


普段からものぐさな僕は柔道部にも関わらず床屋に行くのが面倒くさくて髪の毛も暫く切っていなかったのだが、目や耳を完全に覆っており昭和のフォークソング歌手を地で行くように伸びてきて、部活の準備運動でジャンプするだけで目に入りそうになるので耳が出るように切った後のこと。


朝の学校の下足箱でたまたま長瀬と会った。長瀬はこちらを見るなり天真爛漫な笑顔で近付いてきて

「短い!短い!」

と言ってきた。


一瞬、何のことか分からなかったけど、それほどでもないけど髪を切ったことだと気が付いて

「うん、夏だし暑いから・・・」

と答えていた。ところで、この時の長瀬はガキというよりおもちゃを見付けて目をランランに輝かして走ってきたパピー(仔犬)のようだった。丹羽か誰かは分からないけれど「ガキ」ってあだ名というか裏で呼ぶ名前を付けた奴はちょっとセンスがないなぁとは思ったけど。


それから、数日後のこと。

またしても、長瀬と下足箱で会った。この時の長瀬はゴキこと高塚さんではなくクラスメイトでバレー部の畑佐さん(通称ハタさん)と剣道部の増田さんと一緒だった。


今回も長瀬は僕を見付けると

「ねぇ、なんで髪の毛切ったの?」

と聞いてくる。


この前答えたつもりだったけどなぁと思いつつ


「ん~、なんか暑くなったら急に切りたくなって」


と答えていた。すると長瀬は


「ふーん、ねぇ、まぁまぁ格好いいじゃん・・・ね?」

と一緒にいたハタさんと増田さんに話しを振った。


この瞬間、長瀬以外の三人が固まった。

ハタさんも増田さんも完全に貰い事故だった。

僕を目の前にして長瀬から

「ねぇ、(千寿くんって)恰好良いことない?」って聞かれても「そんなことないよ、雅ってどんな好みなの」なんて否定形で言えるわけがない。


かと言って「うん、そうだね」なんて僕の前で肯定したら、「こいつ社交辞令を本気にしたらどうしよう」って二人は恐れるかもしれない。


「もう、部活行かなきゃ」

そう言って場の空気がこれ以上緊迫しないようにしてその場から離れた。

長瀬っておとなしいと思っていたけど案外人前で大胆だなと思いつつ。


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