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同期の子

大阪第三営業部の和歌山支社はこの1990年4月より組織改編で第一支社と第二支社に分割されることになっている。

僕はディーラーをメインとする第二支社への配属となり、和歌山駅には第二支社のメンバーが集まってくれた。

と言っても僕を含めて4人体制でいるのは支社長と女性スタッフ2名。


細田支社長と4年目になる女性の上野さんと挨拶を交わし、もう一人の女の子と挨拶をした。


「初めまして、雑賀(サイガ)知恵です。同期だよ。」


和歌山は雑賀とか貴志、根来(ネゴロ)といった今まで聞いたことのない苗字が多かった。


雑賀さんはすらっとしたプロポーションで背もまあまあ高く、フランス人形のように整った顔立ちでしっかりした雰囲気だった。


「本当に同期~?」


僕は思わず最初にそう言った。

大人びた雑賀さんの様子を見て誉めたつもりだったのだが、どうやら老けてると言われたと思ったらしく、笑いながらも内心“こぉの野郎”と思ったと後日雑賀さんから言われたのだが、そんなことその当時は分かるわけがなかった。


「ところで、結婚するって聞いてるけど」


突然、支社長から聞かれて

“ここまで噂が広まっているたのか・・・”と思いながらもきっぱりと


「そんな予定も相手もいないです」

と答えた。


歴史にifは禁物だが、もしあの時江利が『神戸から来る人を後まわしにして』見送りに来ていれば、江利の本心は分からないにせよ少なくても僕は多分結婚へ舵を切った気がする。

狭い損保業界の中であれだけ噂になっていて、しかも見送りに来れば誰もが


『ああ、やっぱり』


と思うだろう。

大型代理店の事務員の女の子とそういう噂になれば、仕事の上でもけじめをつける必要が出てくる。

そして、あの時和歌山駅で支社長から


「結婚するんだろ?」


と聞かれた時も少なくても否定はしなかったと思う。


そして、ゴールデンウイークが過ぎた頃に会社に電話が掛かってきた。

江利からだった。

ちょうど、東京へ研修に向こう予定があったので、その際に京都に寄って江利に会うことにした。


人の気持ちとは不思議なもので、ほんの1ヶ月半前まで“この笑顔を他に男に渡したくないなぁ”と思っていて、あれほど輝いて見えた江利がただの一人の女性にしか見えないようになっていた。

そして、この日が江利と会った最後の日になった。


こうして、僕は同期の知恵と5月のマイカー納車を機にドライブに行くようになり6月からは正式に交際し、その年の年末にプロポーズして婚約した。


因みに翌年12月にたまたま京都支店の先輩に電話をしたいたところちょうど江利が京都の代理店を辞めると教えてもらった。

別に結婚退職ではなく一旦フリーターになって新しい仕事をしたいとのこと。

あれだけ結婚願望が強かった江利はまだ独りだった。


と言う事は、あの転勤の日に言っていた


「私、お見合いをしたんだ・・・三人と。でも、やっぱり自分で探そうと思って・・・」


の『自分で探そうとした人』はやっぱり僕だったのじゃないだろうか、少なくとも候補者。

その後に『神戸から来る』人がただの友達でなくてっきりそうかなと思ってしまったけど、あの最後の日に喫茶店でなくて僕の家で二人きりの時にそう言ってくれたなら、


『それって、もしかして・・・オレなの』


って聞けたのに。

誰もいない二人きりの密室でのきわどい会話なら、きっとそんな雰囲気になったのに。

せめて、最初からデートとして夜のお酒の入った状態でそれなりの店ならともかく、バタバタしている引越の日のもうすぐ出発と言う時に公衆のいる喫茶店でそう言ったなら極々『ありふれた一般的な会話の一つ』に矮小化されてしまう。


12月に仲直りしてから江利の誕生日もクリスマスも一緒にいて、暖かくなったら東京ディズニーランドに行く約束をしていた。忙しい時は朝一緒に同じ通勤電車で書類の授受をしていたから、お互いの同僚からは結構見られていたようで、あの二人は朝からイチャイチャしていて結婚が確定しているかのように噂されていた。


ほんの少しのタイミングのズレで人間の運命って変わってしまうものなんだよね、あの頃はまだ20代半ばで未熟だった。



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