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裏の顔

別に犯人探しをしているつもりはなかったのだが、彼女の方から告白してきた。


「この前の貼り紙ありましたよね・・・・。あれは、私です。どうしてあんなこと書いたか分かります?」

とかいろいろ。


もうどうでも良いことだと思っていたけど延々と続く。

なんの告白をされているのか怒られているのか恨み節をぶつけられているのかよく分からない。


でも、話しを聞いているうちに一つ思い出した。

このアトムボーイ豊科店はインター近くの幹線道路沿いの路面店でもあるが、地元のショッピングセンターの駐車場の敷地に併設されていた。

お昼ご飯は自分で寿司を握ったりしていたが、流石に毎日チープなアトムボーイの寿司では飽きてくる。

そこで、ある日ショッピングセンターの中にある飲食店にお昼ご飯に行こうとして、ばったり買い物をしていたそのパートさんとスーパーで会った。


その人と話しをしたことはないけれど、よく出来るパートさんであることは知っていたからどちらともなく声を掛けて、一緒にお昼ご飯に行ったんだった。

こちらは寿司の握り方の勉強のみでなく、この機会だからパート・バイトともよく話して彼・彼女たちがどんな思いで働いているのかを知ることも大切だと思っていたから、気分は新聞記者やテレビのインタビューアーのつもりでそのパートさんともいろいろ話しをしたんだ。

自分の店ではそこまでなかなか踏み込めないから。


それから、数日してから他の握りの男性スタッフから


「ここの誰が好き?」と聞かれ


「えっ、ワシ既婚だし研修生だからそんなこと考えたことないよ」と答えてもやたら


「じゃぁ、誰が好み?」とか喰い下がってくるから『なにを言わせたいのかなぁ』とは思っていたがそういうことだったのか。知ってる人は知ってたんだ。

こちらは取材のつもりだったけど、向こうは違う目で見てたのか。

だから、人気のあった女子高生バイトと喋っていたのを見て怒ってあの貼り紙をしたんだ。

まぁ、救いはその女子高生に対しての貼り紙でなかったことだったことか。まだ、こちらで良かった。


あんなにおとなしそうでよく出来ると評判のパートさんだったのに、その内側はやはり一人の女性だった。ただ、残念ながら同世代にかかわらず少し生活に疲れた感じがする人で女性としての魅力はまったく感じなかった。だから、逆に普段の生活に追われ、通常ならば仕事先では会うことのない研修生だった僕と出会って目覚めてしまったのだろうか。


よく『旦那の知らないうちに内緒で不倫をする人妻達』・・・なんて週刊誌に記事があるがこういった生態は本当にあるんだなと知った。

そして、身近な人妻達は潜在的に不倫願望を持っているとは言わないにしても、平気でそうなりかねないことをするということも体験で知ることになった。


そんなこともあった数日後、そろそろ名古屋に戻ることになった。

仲良くしてくれた女子高校生からは連絡先を聞かれたが次の研修先が決まってなかったので教えることが出来なかった。今ならケータイがあるのに。


そして、最終日は他にもこの日で最後になる研修生がいたこともあり飲み会となった。

一次会も終わり二次会に皆でぞろぞろ歩いて向かう途中で後ろからクラクションが鳴った。

誰かなと思ったらこの前の貼り紙をしたパートさんだった。

何故か車で参加しており、道を空けたのだが執拗にスピードを歩行者並みに落としてクラクションを鳴らしてくる。


“うるさいな~”


と思ったのとアルコールが入っていたので冗談で一緒に歩いていたやや太めの男性を抱きかかえてその車のボンネットの上にゴロンと乗せた。


すると思ったより重いのか車がもろいのかボンネットが凹んでしまい思わず酔いが覚めてしまった。


“ありゃ、まずいなぁ~”


と思ったや否や例のパートさんが車から飛び出してきて


「バカ、バカ」


と言ってまるで漫画に出てくるように肩叩きでもしているかのような手の動きでボカボカと僕を叩き始めた。

こっちが悪いから抵抗も出来ず


「ごめん、弁償するわ」


と言っても今度は泣き続けるばかりだった。


結局車の修理も大したこともなく後日、僕の入っていた賠償責任保険を使って直したのだが、それよりもその話が大きくなってしまった。

そのパートの旦那が夜遅く帰ってきて様子のおかしい妻に不審を抱き調べたところ車も凹んでいる。

それで店に文句を言ってきたようだった。


FC本部から改めて謝罪に行くよう言われしぶしぶ再び豊科の店に行ってそのパートに会い旦那のとこに謝りに行こうかと言うと


「全然問題ないの、亭主のことは本当は。それより・・・あの時は・・・車のことで泣いたんじゃないから・・・分かってる?」


僕は少しふてくされた感じで


「ん、・・・よく分からん・・・」


とだけ答えた。


それにしても、人の口は塞ぐことが出来ないというか別の話しが本部で独り歩きした。

「『カクシン』さんはエラい婿さんを貰ったなぁ」って。

僕が人妻にちょっかいを出して、最終日に話しがもつれ痴話喧嘩をみんなの前でしていたって話しにすっかり入れ替わってしまっていた。


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