【61杯目】潜入⑭
「この商売では伯爵令息と男爵が互いに子飼いの商人を立てて、行っていました。
ですが、先程の言った通り、利益配分においてトラブルが発生した。おい、そこまではいいな?二人とも」
御用商人と商家の眼鏡の男に振り向き、答えを促す。
慌てて無言のまま、うんうんと縦に首を振る二人。
「それで取引の利益関係で拗れた関係を修復するため、このパーティーで一同が会する機会を利用しようと画策したのが男爵様です」
うむとばかりに鷹揚に頷く。
そのぐらいでは男爵は特に動じた様子は見られない。
「とは言っても会場内ではそんな話をすることは出来ない。だから、中庭のガゼボに場を用意した。そこで話し合いをしようと。
集まってからは場を温めるために伯爵令息様が手土産に用意したワインで乾杯。
それで話し合いを行ったが、妥結する前に男爵は酔い潰れてしまった…と、そこまでが表に見える事情だ」
一旦そこで話を切ると、集められた関係者たちは静かに聞いていて、静寂が会場を包み込む。
そんな中で誰かがごくりと唾を飲むような音が聞こえ、それを聞いた隊長は得意げな表情になって次を話し出す。
「だが、裏事情があった。それは男爵様と男爵様付きの商人…つまり眼鏡の男が利益の大半を持って行ってしまったために、伯爵令息様とその御用商人が恨みを持っていたこと。そして、いっそのことと伯爵令息様が御用商人を使い利益独占のために男爵様を亡き者にしようとしたことだ!それで毒を用意したのだ」
手袋をはめて、部下から用意された小瓶を持って掲げる。
隊長はふぅ、とため息をつき、話を続ける。
「では、なぜ伯爵令息様側である御用商人が令息様を毒殺してしまったのか?それは最初にワインを注いだ時にグラスを置いていたが、伯爵令息様が取り間違えたのである!しかも、そのことについて誰も気づかずに現在の事態となったのだ」
隊長が言い終えたことにより、再び場が静まり返る。
そこで遠海さんが私にこそっと耳打ちをする、やはりこちらでやるしかないな…と。
「……はたして、そうでしょうか?」
静かに落ち着いて、それでいて通る声で話し始める。
私の言葉にこの場にいる関係者を含めた人々が注目する。
「まず、そのような高い危険を伴う行為を、成功の保証もない方法で計画をするでしょうか?
それに伯爵令息様が男爵様に対して利益の再配分を交渉すれば無下に出来るとは思えません。
まだ爵位を継いでいないですが、地位に差があるので少なくとも同等かそれ以上で話が出来るでしょう」
「そうだ、私も言った。確かに男爵を亡き者にする様に指示を受け、毒を用意するまではやった。
だが、杜撰な計画だからと思いとどまった、と。それなのに聞いてもらえなくて…」
御用商人が口を挟む。
「容疑者である貴様はだまっとれ!」
隊長が御用商人に対して怒鳴った。
私と御用商人に口を出されて、イライラが募る隊長。
「では、誰が何のためにやったというのだ!…お聞かせ願おうか?」
「はい、では続きを話しましょう」
私はおだやかに淡々と返事をして、ゆっくりと続きを語る。
「確かに事件が実行された場としては警備の皆さんの捜査と同じです。ですが、その先が違います。
あなたがワインを注いだグラス、どうやって配りましたか?」
私にそう問いかけられ、御用商人は少し考えてからゆっくりと思い出すように話す。
「ああ、そうだった。私が配っていない。ええと……確か…男爵のお付きが、配っていた筈だ。そこの執事とメイドがな」
「伯爵令息様と男爵様には誰が渡したかは覚えていらっしゃいますか?」
「………、すまん。そこまでは記憶にない」
「そうですか。そうしたら、男爵様に配ったのはあなたですか?」
私はわざと執事の方に向かい、質問をする。
そこで割って入ったのは男爵だった。
「いや、こやつではない。私が受け取ったのはメイドからだ。のう?」
「はい」
軽く頭を下げて肯定するメイド。
その頭を下げる一瞬だけ私への眼光が鋭くなった気がした。
「では、本題である伯爵令息様にお配りしたのは?」
「はい、そちらも私でございます、千冬様」
「そうなら、お前か!犯人は!」
口を挟む隊長。
まだ、論建てが終わっていませんて。
「私は取り調べと身体検査を受けましたが、その様な物は持っていませんでした。
それは隊長様が一番ご存じの筈ではありませんでしょうか」
「ぐぬぬぬ」
だから私の話を最後まで聞けってば。
「ですが、持っていませんか?毒ではなくて睡眠薬を」
そこでメイドの眉がぴくりと動いたことを私は見逃さなかった。




