【60杯目】潜入⑬
「お姉様、どうでした?どうでした?」
男爵が完全に見えなくなったタイミングで、ぴょんぴょんと跳ねる様なステップを刻み私に近寄る自称妹令嬢。
「ああ、ありがとうな」
そう言って、私は令嬢の頭を軽く撫でてやる。
ざわつきはある程度収まったが、それでもまだまだ混乱している会場だ。
淑女的な取り繕いはそこまで気にしなくていいだろう。
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……お姉様は自分の良さが分かっていない。
撫でてくれるのは嬉しいけど、そういうところが私を…そして、ファンクラブのみんなを虜にしていることも。
背が高くてスラッとして均衡のとれた肢体、ぶっきらぼうていて、それでも包容力のある心遣い。
冷ややかで、それでいて情熱の赤い瞳に吸い込まれそうになる。
そんな私は。
…………などと及びつかない考えをしている自称妹令嬢に千冬は気づいていない。
事件と調査の思案を巡らせることで手いっぱいだ。
自分に向けられた思慕については無頓着であるゆえにああいう行動を取る千冬だった。
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大体は材料が揃ったところだろう。
私は答え合わせを行うべく、遠海さんのところにへと向かう。
ちょうど向こうも同じ考えだったようで、侯爵の元を離れてこちらに向かって来ている。
「その表情、回答の突き合わせに問題がないようだな、千冬」
「はい、問題ありません」
「では…」
情報を交換するうちに新たな疑問点が出つつも、おおよその回答の方向性が一致する。
その足りないピースは捜査していた連中が埋めてくれると思いたいが、楽観的な考えは禁物だ。
調査の疑問点も共有していく内に別なことでも疑問が。
どうしてそんなことを知っているんですか?遠海さん。
それに関しては真顔で『くくくっ』と声だけの笑いで誤魔化された。
そういうところが怖いです、団長殿。
遠海さんは私と自称妹令嬢を連れて、侯爵の元へと向かう。
令嬢は満足したとばかりに侯爵の隣へと戻る。
弁え加減が見事だ。
そこで遠海さんと私は侯爵に関係者を集めるように願い出て、了承を貰う。
侯爵の命に家宰が中心となって各所に呼びかけ、関係者が集まった。
そこでふと、思い出す。
『行けば分かるがな』の言葉の意味。
私主体に事態の収拾などの事を運ばせ、自分は目立たずにいるつもりだということを。
確かに『遠海さんの姿』で目立ちたくはないのだろう。
それでも何かあったらフォローをしてくれると信じて、私は前面に立つことを選ぶ。
早速、突っかかってきたのは私兵の隊長だった、そこは予想通りだ。
「わざわざ我々を呼びつけて、何の用だ?儂の捜査ももう終わる。お前如きに出る幕はないわ」
「では、私が話をする前に伺いましょう。宜しいでしょうか?侯爵様」
「うむ、では申してみよ、隊長」
威厳を保って話を続けように言い渡す侯爵。
雇い主である侯爵に気圧されて、一旦は口籠るが、敬礼と共に改めて意気揚々と話し出す。
「…ハッ。ではまず経緯から話をさせて頂きます。ことの発端は伯爵令息と男爵の商売上のトラブルにあります」




