【58杯目】潜入⑪
私は周りから情報を固めるべく、聞き込みを続ける。
主催者の娘である自称妹令嬢がいたこともあって、割とスムーズに話を聞けた。
とある貴族の夫人からはこのような言葉が。
「あのメイド、体調が良くないのか、たまにお腹をさすっているわ」
そして、その伝手で一番有効だったのが、警備の私兵にも話が聞けたことだ。
「仕事が休み時に街で買い物をしていたら、劇場の前に止まった馬車から例の令息と女性が下りてきたのを見たことがあったなぁ。
今思うとその女性の容姿は男爵夫人に似てた気もするぞ」
「男爵と女性が話し込んでいるのを入口の門の先で見かけたな。特に女の方は深刻そうだった」
実際の目撃証言はありがたい。
― 遠海(夜叉騎士)視点 ―
千冬と別れた小官は真相に近づくべく、男爵に探りを入れるため、再び挨拶をしに行く。
「おお、遠海殿か。今、ひと段落したところだ。私の今日のことを聞きに来たのか?」
「失礼致します。何故にそうお思いになるのでしょうか?」
「酒場の席だけの仲とは言え、貴殿が只者ではないことは承知しておるわ。で、何が聞きたいのだ?」
腹の探り合いが日常茶飯事のお貴族様だ。
それにこの男爵は頭が回る。
その様な推察はお手の物なのだろう。
「では、伺うことをお許しください。お亡くなりなられた伯爵令息様とはどのようなお関係でしょうか?」
「ふむ、そのことか。令息殿とは商取引の相手でな。儲けさせてもらっていたな」
そこまでは予想通りの回答だ。
「その取引内容についても伺って宜しいでしょうか?」
「それは言えん。信用の問題に関わる故にな。それは令息殿がお亡くなりなられても変わらん。
それでこの情報はあれに共有するのか?」
男爵が顎で指し示す先は私兵の隊長。
「さあ、どうでしょうね」
真顔でとぼけて見せる。
それには然程の反応は示していない。
「それから……」
「いい加減にしないか!」
怒鳴る男爵付きの執事。
それを制する男爵。
「よいよい。この男、よもや私より上の身分かもしれんぞ、なあ?」
小官は微笑で答えた。
一度、侯爵に報告することにした。
私兵の隊長は先程まで会場内で聞き込みを行っていたが、御用商人を監禁した部屋に入っていく。
睨まれないタイミングとしてちょうどよかった。
侯爵は主にゲストの貴族に対してのケアを行う差配を行っていた。
家宰から執事、メイドも総動員だ。
「侯爵様に申し上げたき儀があります。お伺いしてよろしいでしょうか?」
「遠海殿か、よう参った。申してみよ。何か判明したか?」
「ハッ。それでは報告させて頂きます」
現段階で判明したことを報告する。
令嬢が集めた噂もあくまで噂として、令嬢が集めたという内容も添えて説明した。
「そうか、そうか。あれにはあまり危なっかしいことはして欲しくはないのだがな…」
有能振りとお転婆振りによる嬉しさと心配が混同した様な不思議な表情になる侯爵。
それも一瞬で威厳の保った表情に戻った。
「それから、噂にあった伯爵の糸引きの件はおそらく白かと。
理由は伯爵と男爵の間に初対面以上の感情が見られないこと、伯爵の為人に合わないこと、このふたつです」
「それは私も確認済みだ。貴殿の報告でまず間違いないと確信したぞ」
手が多いから、既に把握している情報を多そうだ…と感じ、軽く頭を垂れて敬服の姿勢を見せる。
「ときに遠海殿。どう見るのか?私見でよい、申してみよ」
少し考え、今までの内容の整理する。
そして仮の見解を述べた。
「今までの状況を推察するに、利害の線は薄いかと。それよりも怨恨…痴情の線の方が濃厚かと思われます。
利害による殺人では、このような場においてあまりにも危険度に対して見返りが少な過ぎます。
そして毒という殺害方法に計画性がありますが、おそらく突発的な事態も発生したのではないでしょうか?」
考え込む侯爵。
「そうだな…わかった。一度下がるがよい。引き続き調査を続けてくれ」
小官は礼をして引き下がる。
千冬の方に新しい情報が追加で入ったか確認するため、探すことにした。




