表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
62/88

071●名乗りの余波

「通行目的は?」

「旅だ。この街を出る。ガウ・ヘラクレスと、リンリン・ヒポクラテスだ。」

門番の手が止まる。パキッとペン先が鳴った。

「・・・もう一度、ゆっくり言ってくれるか。」

「ガウ・ヘラクレス。」

「リンリン・ヒポクラテス。」


門番は背後の上司を手招きした。

鎖帷子の肩当てがこすれ、金属が小さく鳴る。

「隊長、二名の族名が・・・その、大物でして。」

「どれどれ。」

証明書をひと目見て、隊長の眉がぴくりと上がる。

「ヘラクレスは格闘ギルドの高位称号だ。殴り込みか、挑戦に行くのか?」

「えっ、違う違う!ただの旅人だって!」

「‘ただの’は無理がある。名を持つ力持ちが‘ただの’と言うときは、たいがい何かに巻き込まれている。」

「巻き込まれるのは、まぁ、ちょくちょくあるけどな。」

「そうか、やはり自覚はあるのだな。」

隊長はリンリンに向き直る。

「そしてヒポクラテス。治癒師ギルドの誓詞を履修済みのトップクラス、という理解でよいか。」

「え? 誓詞? 似たようなものは聞いたことあるけど・・・現場で治すほうが得意で、条文はうろ覚えなの。」

「今ここで、誓約第七:『敵味方を問わず、急急如律令』を唱えられるか。誓約第九:『歓喜の歌』でも、よしとしよう。」

「誓約番号は覚えてないな。でも、負傷者がいれば治すよ。」


そのとき、門の反対側から怒鳴り声が聞こえてきた。

「どけどけ! 荷馬車の軸、折れた! 脚、下敷きだ!」

人垣の中で、青年の脛が不自然な角度に曲がっている。

汗の匂い、油と鉄の味。

「行っていい?!!」

「そうしてもらおう!」と隊長。


「ヘラクレス、荷を持ち上げろ。名にふさわしい力を見せてもらう。」

ガウは素早く荷台の梁に肩を差し入れ、息を吐いてゆっくりと持ち上げた。

まわりから驚きの声があがる。

「下から支え木差し込み!三つ数えたら預ける。いち、に、さん!」

梁が足場に移り、青年の脚が解放される。

リンリンが膝をつく。手袋を外し、掌をそっと肌に当てる。

「骨は横骨折、粉砕じゃない。痛みを落として、ずれを戻すね。」

短く息を整え、指先から澄んだ感触を流し込む。

青年の顔から歪みが消え、呼吸がゆっくり整っていく。

「緊縛布、あります?」

隊長が腰のポーチから白布を渡す。

リンリンは添え木を当て、均等の力で布を巻き、

最後に結び目を足の外側に回した。

「三日は走らないで。冷やして、脚は高くして横になってね。夜の痛みが強かったら、これ、飲んで。薬だよ。」

青年は涙目で何度も頭を下げた。

人垣から拍手がさざ波のように広がる。

隊長が、門のところに戻ってきた。

「・・・確認終了。 ヘラクレス、ヒポクラテスは通ってよし。・・・見事だ。」

リンリンが胸を撫で下ろす。

「ただし、誤解も生む。名乗り方を一つ教える。」

隊長は帳面を開き、さらさらと書く。


――〈族名:ヘラクレス(格闘称号と無関係)

/ヒポクラテス(治癒師ギルドの誓詞未所属・現場治癒)〉」


「但し書きも持って行け。余計な挑戦状を叩きつけられずに済む。」

「なるほど。名乗りにも、気遣いがいるのか。」

「名は力だ。扱いを誤ると、面倒が寄ってくる。」


ちょうどその時。

斜向かいの酒場から出てきた大柄な魔物が大声を上げる。

「おい!ヘラクレスだと?どこだあ?!力くらべだ、今ここで!」

「隊長、但し書き、効いてませんね。」

「書く前だったからかな。昼間から酔っぱらうとは、幸せなやつだ。」

ガウは軽く手を挙げた。

「はーい、オレでーす。賭けなし、武器なし、三秒だけなら。」

「なんだ、その条件は?!」

酒場の男は鼻を鳴らす。

「三秒だけで、いいですね?」


「終わったね!あっけない、というか、なんというか。」

「リンリン、なおしてやってくれ。ま、気絶しているだけだけど。」

「ひょいっと。これでOK。行こうよ、ガウ!」

「おう、リンリン!」


ふたりは城壁の門をくぐり、石畳の先へと軽やかに歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ