047⚫️穴の中のタヌキ
激しく行き来する声。
「マム!敵艦、急速接近!」
「速すぎる!ボロボロの艦で、なんて無茶な出力を、っ!」
「浅瀬です、潜航深度が足りない!このままでは戦闘艇を出せません!」
「敵、砲撃準備中!射撃開始まで、あと七十秒!」
情報の濁流がブリッジを叩く。
一方、水平線の向こうではバーバラが哄笑していた。
「ふっ、ふっ、ふ・・・。捉えたぞ、黄色い悪魔め。マ〜チルダア〜!」
主砲が重苦しい音を立てて旋回を始める。
「装填急げ!いかに高性能な潜水艦とて、潜れなければただの鉄の塊。この青い空と海の間、逃げ場のない遠浅に潜り込んだのが運の尽きだあ!陸に上がったカッパ、木から落ちたサル、泥に嵌ったブタ。逃さんぞ、木っ端微塵にしてくれるわ!」
ナガトのブリッジは、総員退避を拒むクルーたちで溢れかえっていた。
「艦長、これはいけません。まさに穴の中のタヌキだ!」
「脱出してください!オレが囮になって、敵を引き付けます!」
「こら、お前!かっこいいところを独り占めするんじゃない!」
口々に叫ぶ部下たちの顔を見渡し、マチルダは場違いな’幸福’を一瞬だけ感じた。
これほどまでに愛すべき者たちに囲まれているのだ。
だが、させん!絶対にだ!
マチルダは、一点の曇りもない瞳で命じた。
「全員、そのまま!私が守る。この’ナガト’で、全員揃って生き延びるのだ!」




