046⚫️なかがき
彼は唸っている。
うーん・・・これは、イカン。
自分の世界線に入ってまだ一年。
だが、意識はすでに「ゾーン」にある。
トランスか、あるいはフローかの状態?
自分でも見当がつかない。
ただ、心地良いのだ。
夢中になってキーボードを叩き、ストーリーを紡ぐ。
脳内には、快感ホルモンが溢れているに違いない。
だが・・・ふと我に返ると、ストーリーの整合性が怪しくなってきた。
科学的根拠や設定の矛盾。
特に、マチルダが浄化海域へ到達するタイミングと、バーバラの猛追。
時間と距離の計算が、どう考えても「めちゃくちゃ」なのだ。
島から同心円状に浄化が広がるなら、
バーバラが二十分の距離にいるのはおかしくないか?
マチルダが巡航で一時間かかるなら、速度差はどうなる?
算数からやり直すべきか。
「何言ってるんだ。ここは君の世界線だろう?」
不意に、ロイが声をかけてきた。
「いや、ロイ。そうなんだけど。専門用語を並べて、もっともらしく書いてはいるけどさ・・・。」
「それを気にしすぎると、君がこの世界線で過ごす目的が揺らがないか?」
目的・・・そうだ。自由に、楽しく、魂を解放することだったはずだ。
「だから、何でもいいんだ。君は次の展開を書きたくてたまらないんだろう?」
「おっしゃる通りです、はい。」
「なら、進めばいい。公表の是非や整合性なんて後回しだ。発散と解放が先。この世界線は、君が楽しむために存在しているのだから。」
ロイはそう言うと、光球の中へと消えた。相変わらず、鮮やかな引き際だ。
「わかった。次に進めるよ。」
キーボードに向かう指が再び熱を帯びる。
明日は、義母の納骨だ。
彼の旅は、現実と空想の世界線を、
今日も激しく行き来している。




