040⚫️平和の海
魔物も互いに争う。ニンゲンもそうだ。
さらに、魔物とニンゲンも戦う。
生物学の観点から言えば、ニンゲンは互いにホモ・サピエンスという同種である。
では、魔物は人類と異種なのか。
少なくとも、古層の人類、
例えばネアンデルタールとの関係ほど決定的に遠いわけではないだろう。
同種であれ近種であれ、意思疎通が成り立ち、
繁殖可能性すら想定できる存在同士であるはずだ。
だが、それでも
利得のため、生存のため、略奪と殺戮は機構として再生産されてきた。
その仕組みへの無自覚が、争いの常態化を許してきたのだ。
「ガウ、なんだか綺麗なところだね。」
「うん。海、だな。初めてか?」
「へえ・・・これが海かあ!広いね!」
リンリンは小走りで波打ち際まで駆けた。
青い空。紺碧の海。潮の匂いがやわらかく満ち、海風が頬を撫でる。
足もとで、白い砂がさらりと音を立て、
寄せる波が指先をひやりと洗った。
カモメが滑空する。
「鳥が鳴いてる!」
リンリンが顔を上げる。沖の波頭が光の粒になって、ほどけていく。
ガウは少し離れて、その背を見守った。
警戒の視線は忘れない。
それでも、胸の内側に、重しが一つ外れていくのを感じる。
「・・・静かだな。」
リンリンが振り返る。
彼女の髪が風に揺れ、笑顔がこぼれた。
この海で、歴史は繰り返すのだろうか。
だが、暴力の無い世界の気配が、確かにそこにあった。




