表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベータの俺でいいんすか  作者: 山端のは


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/44

36 どういう意味だろう

 夕食の席につくころには、礼知(あやと)さんもオークリー君もしれっとしていたけれど、功斉(いさなり)様は何度か笑いを堪えていた。

 ううう、俺も早く気持ちを切り替えよう。


 食卓に並んだのは意外にも家庭料理だった。煮物と焼き物、お浸し、味噌汁とごはん。

 ほかほかと、うまそうだった。


「坊ちゃま方がいらっしゃるとわかっていれば、お肉を用意したのですが」

 お手伝いさんが恐縮したように言い、礼知さんが微笑んで小さく首を振る。

「構わないよ。突然押しかけてすまなかったね」


 おおお、坊ちゃまなんだ……。

 さすが。


(けい)は肉の方がよかった? リクエストしておけば、次に来たときは食べさせてもらえるよ」

「俺は魚も好きですよ。この鮭だって皮目がこんがりしていて、すごくおいしそうです!」


 素直に答えた後、ふとチーフの顔が脳裏に浮かんだ。白目をむいていた。

「……今の、遠慮するところでしたか」

 そっと尋ねてみたところ、功斉様がとうとう吹き出した。

「そんなものはいらん。もう彗君は、うちの孫みたいなものじゃないか」

「だからと言って、あまり彗を連れまわさないでください」


 流れるように孫扱いされて、俺はすっかり口を挟み損ねた。

 礼知さんも否定しないし……。


「彗君、冷めちゃうよ、食べれば」

 オークリー君は、すでに食べ始めていた。今は彼のマイペースさが羨ましい。


 それにしても、この場に俺が混じっちゃっているのは、妙な気分だ。

 家族の団らんって感じ。温かい料理がほんの少しだけ飲み込みづらかった。


「そういえば……おじい様、お願いがあります」

「うん? なんだ、礼知。珍しいな」

「彗に私の写真を与えないでください」


 食後のお茶を思わず吹き出しそうになった。

「そんな! 礼知さん、なぜそうまでして!」


 嘆いていると、傍で聞いていたオークリー君が「ふうん」と口の端を上げた。すかさず礼知さんが切り込む。

「オークリー、同じことをやり返されたくなければ余計なことはするな」


 その脅し、俺にはよくわからなかったがオークリー君には効いたらしい。彼はぐっと口を閉ざした。

「ふむ……。わしの写真ならいいだろう?」


 そう言って、功斉様がお手伝いさんに持ってこさせたのは、この間の展示会の写真だった。

「すみません、拝見する前に手を洗ってきていいですか」


 そう断って一度席を離れ、戻ってきたときにしまったなと思った。

 出てくるときにきちんと閉めていなかったのか、両開きの扉が薄く開いていたのだ。


 ドアノブにそっと手を伸ばしかけたとき、ふいに自分の名前が聞こえた。

 オークリー君の声だった。


「彗君が、オメガだったらよかったのにね、礼知」

「……そうだな」

 ため息交じりの声を聞き、俺は自分の口に手を当てた。

 音を立てないように後ずさりして、廊下の壁に背をつける。


 オメガだったらよかったのに……。

 その言葉がリフレインした。

 いったいそれ、どういう意味だ。

 だけど、こんな盗み聞きみたいなマネをしておいて、問い詰めるわけにもいかない。


 俺は何も聞かなかった。それが一番平和的な解決だ。

 こっそりと息を吸いなおして、何でもない顔でするりと食堂に戻った。


「お待たせしてすみません。拝見いたします! ――って。うわ、これ、俺が邪魔!」

 思わず天井を仰いでしまった。


 コレクションに囲まれ、堂々と椅子に座る功斉様と、その横で変な笑みを浮かべる俺。


「彗は写真写りが悪いね」

 礼知さんが首を傾げ、オークリー君ものぞき込んで無表情のまま「ぷ」っと笑う。

「緊張していたんです」

「彗が?」


 礼知さん、そんなキョトンとすることないんじゃないかな。

 俺だって緊張くらいする。


「あの場にいたの、なんかすごそうな人ばかりだったじゃないですか」

「なんの。ただのもの好きなじじいの集まりだ」

 功斉(いさなり)様は豪快に笑うけど、そんなわけがない。俺はむっと顔をしかめた。

 すると功斉様は人の悪い笑みを浮かべた。


「彗君、皆それぞれ癖のあるコレクターだぞ? 見てみたくはないかね」

「え!?」

「おじい様、そうやって彗を誘惑していたんですね。止めてください」


 俺はぐらぐら揺れていた。チーフの胃腸を守るためにも、礼知さんに程よいところで止めてもらえるのはありがたい。けど、癖のあるコレクションとやらを見てみたい気持ちもある。


「アルファってたいてい妙なもの集めるよね。彗君はベータだけど、なんかコレクションしているの?」

 何か妙な期待をされているな。俺はゆるく首を振った。

「俺は、写真を撮るだけで満足なんです」


 笑って答えたはずなのだけど、オークリー君も礼知さんも、一瞬妙な顔をした。

 痛ましいものでも見るみたいに。

 貧乏人だと思われてるな。まあ、否定できないけど。


 


 「お招きありがとうございました。それでは、失礼します」

「またいつでもおいで」


 今の功斉様の口ぶり、ちょっと礼知さんに似ていた。

 おかげで俺は、自然と笑って頷いていた。


「彗、そこまで送っていくから」

 断ろうにも彼はもう靴を履いていて、俺の背にそっと手を添えて歩き始めた。


「おじい様が連れ歩くから、彗とゆっくり話す時間もないよ」

 などと言った割に、礼知さんは何も言わず俺の隣で白い息を吐くばかりだ。


 とはいえ俺の方も、さっきの言葉が耳から離れない。いつもみたいに調子よく話すことができなかった。

 俺がオメガなら、礼知さんは俺をどんなふうに扱ったのかな。

 なんて、考えても詮ないことだ。

 ベータはどこまで行ってもベータなんだから。


 ふと見上げた先に月が見えた。

 月には暈がかかっていて、淡い光は地上までは届かない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ