34 これはダメなやつ
「展示会の成功を祝って!」
功斉様の音頭で打ち上げが始まった。
一軒家レストランを借り切って、俺や功斉様の秘書さんたち、それに便利屋の先輩たちまで招いてくれた。
「お、俺たち本当にここにいていいのかな」
「このレストラン、予約取れないことで有名なんだよな……」
最初は隅の方で肩身が狭そうにしていた先輩たちも、食事と酒でいい感じにあったまってきた。
「榎並、飲んでるか!」
「めちゃうまです」
まあ、ジュースだけど。
絡み酒の先輩を押しのけると、今度は井上先輩が抱き着いてくる。
「彗~っ! おまえ本当に、本当によかったな!」
「先輩、飲みすぎですよ」
「だっておまえときたら、恐れ知らずだしさ~。すぐクビになりそうになるし! どれだけ心配したと思ってんだよ!」
すっかり泣き上戸だ。
「ははは、その節は――っと」
急に後ろへ引っ張られて誰かの胸元にぶつかる。誰かというか、この大きな手は礼知さんだ。
周りの空気がざわめいたけど、実のところ俺も、一瞬ギクッとこわばってしまった。
「彗、そろそろ帰っておいで」
礼知さんはちょっと酔ってるみたいだ。目じりがほんのり赤い。
周りに妙な誤解を与えたらって思って、俺は急いで言った。
「はい、次の仕事ですね! もちろん忘れていませんよ!」
――別に誤解なんてしないか。
どう見ても、不釣り合いだしな。
なんて薄々思いながらも。
「今から楽しみです。どんなふうにコーディネートしようかって!」
そうだ。いよいよ礼知さんの住まいづくりが始まるんだ。
展示会も楽しかったけれど、こっちも格別だぞ。
仕事のことを考えて、よこしまな気持ちは脇にどけた。
実際うまくいきかけたのだけど、礼知さんに頭をぽんぽん撫でられて、俺の気持ちはまたちょっとぐらついた。
「偉いね。けど、明日はゆっくり休むように。彗、元気がないよ?」
ドキッとした。
隠し通すと決意したばかりなのに、もう何か漏れているんじゃないかって。
幸い礼知さんは、俺からすっと目をそらした。
「そちらの皆様も少々酔いやすくなっているみたいだしね」
あれ、おかしいな。
笑顔のはずなのに、どこかうすら寒い。
そう感じたのは俺だけではないらしく、先輩たちはそそくさと解散した。
しまった。置いてかれちゃったぞ。
「じゃあ俺もこれで……」
遅まきながら立ち上がると、礼知さんまでついてきた。
「彗、送っていく」
などとコートを取ろうとするので俺はそっと押しとどめた。
「徒歩圏です。お気遣いなく」
「雪が降りそうだよ」
「大丈夫です。ちゃんと手袋も持ってますからね!」
「……手袋だけ?」
「走って帰るんで。じゃあ、お疲れ様です!」
一方的に言い置いて、俺は逃げるように駆け出した。
◇ ◇ ◇
休み明け、俺はキッチンのことで悩んでいた。
なんだかしっくりくるのが見つからない。
困っていたところ、功斉様に呼び出された。
ちょうどいいタイミングだ。俺もお屋敷のことで詳しい話を聞きたかった。
内装をどこまで変えていいか、とか。
「家は住んでこそ。好きなだけ変えなさい。しかし、礼知は君に丸投げかね」
「一任と言ってください」
俺はすかさず胸を張った。
功斉様は何か言いたそうな顔をしたものの、結局話を続けた。
「それで、キッチンで悩んでいると?」
「はい。どうもイメージしているものと出会えなくて」
「ならば業者を紹介しよう。いや、今から一緒に行くか。その方が話が早いだろう」
「お忙しいんじゃ!」
「なに、皆わしを立ててくれるが、隠居した暇なじじいだ」
功斉様はフットワークが軽かった。話もめちゃめちゃ早かった。
早速オーダーメイドのキッチンメーカーへ向かい、俺の要望を叶えてくれた。
連れまわされたのはこの日だけではなかった。
微妙に断りにくい誘い方をしてくるんだよな。
いい窓枠やドアがある場所へ案内してくれたり、文化遺産とかの、普段は立ち入れないような場所へ連れて行ってもらえたりする。
実際勉強になるし、役得すぎる!
「さっき見たところで、一番の見どころはどこだと思う」
「あのガラス戸、よかったですね。職人技が光っていました。」
「そうだろう。彗君なら気に入ると思ったよ」
などと意気投合して、気づけば夕食でもと誘われて、自宅にお邪魔しちゃっている。
あれ、これ、いいのかな?
次はあっちだ、行くぞ――というノリで誘われて断りそびれてしまった。
チーフに一報入れたほうがいいかな。
報告のため席を外したところで、思わぬ相手と再会した。
「あー! 彗君!」
「オークリー君!?」
これは悩まなくてもわかる。ダメな奴だって!




