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ベータの俺でいいんすか  作者: 山端のは


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28 待ち合わせ

 

 今日は礼知(あやと)さんとお出かけだ。

 待ち合わせは十時だが、まさかお待たせするわけにもいくまい。俺は三十分前にはカフェに到着した。

 それでも、礼知さんはすでに店内にいて女の子に囲まれていた。


 最前線の二人は、オメガみたいだ。すこし遠巻きに順番待ちするようにもう二人。あとはチラチラ様子をうかがっている感じ。

 うわあ、すごいな。


 俺はアイスコーヒーを手に持ったまま尻込みしてしまった。


 ザワザワしている店内で、話の内容まではわからない。

 何気なく眺めていたのだが、礼知さんの様子に少々驚いた。一見いつもの王子様スマイルなんだけど、なんとなーく冷たいような。

 ひょっとして迷惑しているんだろうか。

 そろそろっと近づいてみたところ、礼知さんがこっちに気付いた。


(けい)!」

 晴れやかな顔で呼ばれてしまったんじゃ仕方ない。

「連れが来たから、これで」

 女性たちの視線が痛い!

 だ、俺の方が先約だ。堂々と――するのはちょっと無理かな。

 遠慮がちに輪の中に割って入った。


「お待たせしました」

「いや、楽しみにしすぎて早く来ちゃっただけだから」


 うお、笑顔がまぶしい。なぜ俺にそれを向けちゃうかな。オメガちゃんたち白目むいちゃうよ?


 礼知さんは、いつもと違ってTシャツにサマージャケットを合わせたラフな格好なんだけど、元がいいからものすごく様になる。

 それにヤバい。

 今日はいつもの分厚い前髪じゃなく、分け目があるバージョンだ。よりかっこよく見えるヤツ。


「彗こそ早いね」

「一応、あの、お待たせしないようにと思ったわけですが……」

 結局待たせてしまったので説得力が皆無だった。


「ふうん。それなら次回もまた早く来ないとならないね」

「どうして!? やめましょうよそういうの」

「なら、彗もダメだよ」


 寝ぐせでも直すようなしぐさで、礼知さんは俺の髪に触れた。

「お、俺はいいんすよ。暇ですし」


 ナンパもされないし。

 でも礼知さんはダメだと思う。


「あの、待ち合わせ場所、次からは個室にしましょうか。それか、ボディーガードさんとかつけたほうが……」


 彼の方に少し身を乗り出して、こそこそと進言したら笑われてしまった。彼の方も身を乗り出してきたので、すっかり内緒話の距離感だ。

 ドキッとしたそのとき、ふと彼は不服気に眉を寄せる。


「彗は人のことなんだと思ってるのかな?」

 至近距離で拗ねられた!

 王子様だと思ってるけど、衆人環視のもとそれを言う勇気はない。

「それは、その……」


 もごもごごまかして周りを盗み見る。

 だけど、心配なんだよ。

 礼知さんくらいになると、犯罪まがいのことをしでかす人がいるんじゃないかって。

 フェロモン事故を装って既成事実作っちゃおうみたいな人に狙われたりとかさ。


 ダメだ、フェロモンという単語に引きずられてオークリー君のことを思い出してしまった。

 アレを浴びたら――、礼知さんでも乱れたりするのかな。

 一瞬、変な想像しそうになった。


 俺は慌ててのけぞり、コーヒーをすすって頭を冷やした。


「彗?」


 探るようなまなざしで礼知さんがこちらを覗き込む。長いまつげが、やけに艶めいて見えた。

 って、邪念を払いきれてない! 


「そ、それより礼知さん、その髪は休日仕様なんでしょうか」

「休日だからというか、特別だからというか……。変かな?」

「いえ! 大変よくお似合いです!」

「なんで目をつぶって言うの」


 声の響きに非難が込められている気がして、俺はそろりと目を開けた。

 ダメだ、直視できない。俺はすっかりうろたえてしまった。


「えっと、これは、なんていうか……」

 ゴニョゴニョと、ろくに言い訳もできない俺を、礼知さんは笑い出しそうな顔で眺めていた。そうかと思うとふっと首をかしげる。


「彗はあまり変わり映えがしないね」

「あ、はい」


 俺はいつも社名入りの作業着とポロシャツだ。今日はそれが無地のTシャツってだけなので、まあおっしゃるとおりである。

 自分の格好を見下ろしたおかげで、俺はすとんと落ち着いた。そうだよ、別にデートじゃあるまいし、俺はなにをうろたえてるんだ。


「人には可能な限りカジュアルな格好で来いと言っておいて、彗はいつもと変わらないというのもおかしな話だ」

「俺はこれ以上楽な格好ってなると、ジャージかパジャマになっちゃいますからね」


 威張って言うようなことでもなかったかもしれない。

 礼知さんは心持ちあきれたように見える。


「……だったら、服とか買いに行く?」

「それは! 礼知さんをフルコーディネートしていいという?」

「違う、彗違うから!」

 妄想する間もなく、ストップをかけられてしまった。


「どうしてそうなるんだよ。この場合こっちが彗をフルコーディネートだろう?」

「え、嫌ですよ。礼知さんとは金銭感覚が違いそうだし」

「そんなことはないだろ」

「いいですか、礼知さん。このTシャツ七百円です」

「――え?」


 礼知さんは自分の持っているドリンクと俺のTシャツを見比べた。

 そう、ドリンク一杯より下手すりゃ安いんですと、俺は重々しく頷いた。

 王子様は自分のお召し物の値段も知らないかもな。


 だが、それでいい!




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