表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベータの俺でいいんすか  作者: 山端のは


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/44

26 放っておけるか

 谷さんが派遣されて、今日で一週間。

 あれから俺は、オークリー君と顔を合わせることなく過ごしている。

 とはいえ、谷さんの派遣は今日までの約束だ。なんか、解決したのかな。


 バスを待つ間、俺はそっと谷さんに声をかけた。


「谷さんは明日からどうするんですか?」

「自分の仕事に戻る」

「えっと、代わりの人が来るとかは」

「聞いてない。――それより、邪魔しないでくれないか。今日で最後なんだ。……まだ、連絡先も聞いていないのに」


 なるほど、別のことで頭がいっぱいのようだ。


「オークリー君にはお相手がいるんですし、あまりしつこくしないほうがいいんじゃないでしょうか」

「それ、どこ情報?」


 ちょっと小馬鹿にしたように聞かれたので、俺は慎重に答えた。

 礼知(あやと)さんは秘密にしておきたいみたいだし、俺が漏らすわけにはいかない。


「どこってわけじゃないですけど、オメガですよ? アルファが放っておくとも思いません」

「いないって」

「は?」

 ニヤニヤ笑いを浮かべる谷さんは、少々気持ち悪かった。

「いないんだって! まだチャンスはある!」


 ちょっと引いていると、彼は夢見る瞳でポツリと最悪なことをつぶやいた。

「付き合えなくても、せめて抱かせてくんないかな」

「うわ……」

「なんだよ、その反応。興味ないのか? 男のオメガは凄いらしいぞ。一度味わったらもう女の体じゃ満足できないって」

「公共の場で下品なこというのはやめてください」


 たとえバス停には俺たちしかいなくても。

 顔をしかめる俺に対し、彼は鼻で笑った。

「童貞かよ」

 振られちまえ!


 脳内で呪いをかけたところでバスがやってきて、話はそこで終わった。

 でも俺は、なんだかもやもやしてしまい、バスの天井を見上げた。

 相手がいないって?

 ……そうなのかな。


 ものすごく迷ったのだが、一応礼知さんには報告済みだ。

「谷さんは、あの方にとっても興味があるみたいですよ」

 って。

 だけど礼知さんは「そう」とそっけなく返しただけ。


 わからないな。

 礼知さんは、オークリー君と一緒にあのお屋敷で暮らしたいんだよね?

 もしかして俺の勘違い?

 一緒に暮らしたい人は別にいるんだろうか。


 悩んでいるうちに最寄りのバス停へ到着してしまった。

 屋敷の周りにオークリー君の姿は見えない。

 とうとう谷さんのことが面倒になって撤退したのかな。

 それならそれで、俺としては余計な心配しなくて済むからいいんだけど……。


 事件が起こったのは、その日の夕暮れのことだ。

 空の食器棚の前で、やり残しがないか見回していると外から争う声が聞こえた。


 いつもは谷さんの声が一方的に聞こえるばかりなのに、オークリー君が声を荒げている。

 まさか、谷さんが無理強いを!?


 勝手口からあたりを見回すと、いた。

 谷さんは夕日を背負ってプロポーズの体勢だった、片膝をついて見上げる相手はもちろんオークリー君。

 そしてオークリー君は――ぶちぎれている!


「うるさいな、そんなに言うなら、相手をしてやる!」

 そう言って彼は帽子とエプロンを脱ぎ捨て、乱暴に胸元を開いた。

「え!? そんな大胆な!」

 谷さんがそれを見て乙女みたいな声を上げたかと思うと、次の瞬間。しまりのない顔でバターンと倒れた。


 な、何が起こったんだ……。

 

「見つけた――、彗君」

「へ?」

 オークリー君はゆらゆらした足取りでこちらに近づいてくる。

 よっぱらったみたいに顔が赤いし、それにすごく甘い匂いがする。


「まさか、フェロモン――!?」

 フェロモンに起因する事故のことを、俺は噂でしか知らない。

 オメガのそれには強烈な媚薬効果があり、社会の秩序を著しく乱すとかなんとか。

 俺は考えるより先に動いていた。


「オークリー君、早く中へ!」

 彼の手を引いて、入れ替わりに自分が外へ出ようとしたのだが、なぜか彼に引き留められた。

「ちょっ、オークリー君!」


 彼からはむせかえるような甘い匂いがして、頭がギューッと痛くなった。

 谷さんは、ひょっとしなくてもフェロモンで倒れたのかな……。


 でも、放っておけるか!

 閑静な住宅街とはいえ、このままでは誰かに襲わてしまうかもしれない。

 とにかく鍵のかかる部屋に避難させなくては。


「バスルームへ! 早く」

「ええ? 彗君が相手してくれてもいいんだよ」

「軽々しくそういうことを言わない!」


 怒鳴りつけると、彼は少し怯んだ。

 その隙に、彼をバスルームへ追いやって、俺は再び外へ向かう。

 勝手口と玄関のカギを閉めたところで足に来た。


 まだだ。まだ倒れるわけにはいかない。

 俺はスマホを取り出した。

 こんな時に限って、礼知さんに繋がらない。

 プライベートの方の番号に掛けなおす。


 ああ、ダメだ、目を開けてられない。

 手元から転がり落ちたスマホからは『発信音のあとにメッセージを』という無機質な音声が流れていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ