25 彼の方がよっぽど危ない
「どうして教えてくれなかったんだ!」
自分の仕事があるとか言っていたはずの谷さんが、わざわざ俺のところまできてくだを巻いていた。
「彼が、あんな、――あんなに可愛らしい魅力的な子だって!」
彼というのはもちろん。オークリー君のことなのだろう。興奮して敬語を忘れてる。まあもともと敬われる立場でもないから俺は気にしないけど。
実のところ俺は今、彼に構っている場合じゃない。
フォークとナイフを手に取って柄を見つめ、こいつらがセットなのか見定めているところだ。
これはなかなか大変な仕事だ。
セットとして目録に登録したあとで間違いが発覚したら、かなり恥ずかしいぞ。
そんなわけで、今の谷さんはかなり邪魔だけど、なんか返事を寄こせっていう圧を感じるな。
「オメガだって聞いてなかったんですか?」
「聞いてたさ! けどあれは、男のオメガってだけじゃ完全に説明不足だろう! ――あの絹糸のような輝く金髪、吸い込まれそうな青い瞳、なめらかで、陶器のように真っ白な肌! あんな美しい子が身近にいるなんて!」
「いや、あなたの趣味とか知りませんし」
「彼を前にして、本当になにも感じないのか!?」
そりゃ感じたさ。礼知さんの横に並び立ったら、すごくお似合いだろうなって。
ん、なんだ? なんか前にそう考えたときより、胃のあたりが重い気がする。
いつも自分のペースで作業しているのに、この人がうるさいからだな、きっと。
「人形みたいだなって思いました。それより、オークリーく……様に、ちゃんと説明してくれました? 俺が礼知さんにいろいろ禁止されたってこと」
「もちろんしたとも。俺がいるからには彼には指一本触れさせない」
彼は白い歯を輝かせながら、俺にぐっとサインを向けた。
「それはどうも」
かなり気のない返事になってしまった。
もともとないぞ。触れる気なんて。
「そうだ、俺があの子を守らないと!」
決意めいたことを口にして、谷さんはようやく出て行ってくれた。
足取り、軽いなあ……。
礼知さーん! あの人の方がよっぽど危ないですよ~!?
いや、仕事だ仕事。
もう向こうは向こうに任せよう。
さあ、片付けるぞ!
集中していたら、あっという間に昼になった。
俺はカメラを置いて大きく伸びをした。
コンビニ弁当を手に取って、さてどこで食べようかと首を巡らせる。
気分転換したいから、ひとまずキッチンから出る。
移動することを谷さんに言っておきたかったけど、彼は居間にパソコンだけ置いてどうやら外にいるようだ。
たぶん、一方的に話しかけているんだろう。聞こえてくるのは谷さんの声だけだ。
俺は忍び足で階段をのぼって、二階の廊下へ向かう。薄く開いた窓から二人の様子が見えた。
どうやらオークリー君は帰るみたいだ。ホッとしていたら、彼は視線に気づいたように振り向いた。秒速でしゃがんだので見つかってないはず。
弁当はぐしゃっとなったが、その日はそうして乗り切った。
「どうだった? アレに会わずに済んだ?」
礼知さんに鍵を返しに行ったら、さっそく質問された。
「しっかり目をつぶっていたので、大丈夫です!」
俺的にはセーフだと思ったのに、横から谷さんによるダメ出しが入った。
「変なジェスチャーして、なんとかコンタクト取ろうとしていたでしょう」
余計なことを言うなよ。
案の定、礼知さんが興味を持っちゃったじゃないか。
「ジェスチャーってどんなの? やってみて」
「とっさだったんで、あんまり覚えていないんですが……」
「それでいいから」
そこまで言われちゃしょうがない。なんだっけ、「あいさつ」「しゃべれない」「ぺこぺこ」だったかな。
俺はギュッと目をつぶり、なんとか思い出せる範囲で再現してみた。若干違う気もするが、覚えてないもんは仕方ないだろう。
動作を終えて目を開けると、礼知さんはあごに手を当てじっと考え込んでいた。
「面白すぎるから、次からはそれもダメだね」
理由!
でも俺の答えは「はい」一択なんだよな。
俺の報告が終わると、礼知さんは谷さんに視線を向けた。
「谷は? アレとうまくやれそう?」
「はい! お任せください! 誠心誠意お仕えします!」
行くときはハズレくじだとかぶつぶつ言ってたのに、朝とは別人のようにやる気に満ちている。
それをどう捉えたのか、礼知さんはひとつ頷いて谷さんの退出を許可した。
谷さんのこと言うべきだろうか。あの人オークリー君のこと、ものすごく気に入ったみたいですよって。
告げ口みたいになっちゃう?




