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ベータの俺でいいんすか  作者: 山端のは


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24 面倒な人がきた

 三日後、ようやく出勤許可が出て、俺はいそいそ礼知(あやと)さんのオフィスに向かった。

 すると社長室に見慣れぬ男性がいた。スタイリッシュな紺色のスーツにかっちりスタイリングの決まった髪型。『ベータはベータでも品質の高いベータです』って主張している感じの人だ。


「谷です。一週間よろしくお願いします」

 一週間? 

 疑問に思いつつも、名刺をもらっちゃったので、俺からも渡しておく。

「榎並です。えっと?」


 状況がわからず礼知さんを見やると、彼はニコッと笑った。


「今度から屋敷に行くときは彼も連れて行って」

「はあ……」


 なんだろう。やっぱり俺だけじゃ心もとないのかな。家財管理とか?

 この間、金製品がたっぷり出てきたからかな。


「谷さんは、いったいどういったお仕事を?」


「君が庭師と呼ぶあの男のこと、全部任せたから」

「え? オークリー君ですか?」

「くん?」

「間違えました! オークリー様です」

「うん。アレと仲良くなること、認めたわけじゃないからね」


 俺は慌てて言い直す。礼知さん、やっぱり彼のことになると不機嫌になる。

 今まで以上に気を付けよう。


「アレの対応は、すべてこの谷に任せて、君は自分の仕事をするんだ。わかったね」

「はい」

「アレとは話さない、触らない、目も合わせない」

「そんな! 挨拶は!?」

「わかったね?」

「……わかりました」


 圧が……。

 アレなんて言い方、礼知さんが他の人にするとは思えないから、やっぱり彼には特別な親しみを感じているんだろうな。


「谷も頼んだよ。アレを彗に近づけないように」

「はい、社長」



   ◇ ◇ ◇


「は? バスで行くんですか?」


 礼知さんのオフィスから出た途端、文句を言われてしまった。

 この谷という人は、二面性があるらしい。礼知さんの前では愛想よくしていたのに俺と二人きりになると機嫌が急降下した。


「俺一人のために社用車は借りられないし、そもそも俺、免許持ってないんで。少し歩きますけど、通えない距離ではないですよ」


 歩きながら説明すると、背後から舌打ちが聞こえてきた。

 気持ちはわからないでもない。


 彼は礼知さんの会社の正社員で、俺は外注の便利屋だ。

 どちらの立場が上かと言えば、当然正社員さんのはずなんだ。

 なんかきっと、抱えているプロジェクトとかもあったんだろう。

 とはいえ俺のせいではないのだし、下手につつかないでおく。


 バスから降りて、俺は近くのコンビニを指さした。


「お屋敷のそばに飲食店ってあまりないみたいなんで、俺はいつもそこのコンビニで買ってるんです。寄ってっていいですか」

「もう就業時間でしょう? そういうのは、出社前に買っておくべきでは?」

「じゃあ谷さんは買いませんか? 弁当持ってきました?」

「……いえ」


 結局彼もコンビニでなんか買っていたから、これで共犯だ。


「俺の会社では、昼の予定なんて立たないことのほうが多いので、基本食事は現地調達なんですよ。まあ礼知さんはそんな細かいことで怒んないと思いますよ」


「その、礼知さんって呼ぶのもどうかと思いますね。社長とお呼びするべきでしょう」

「本人にそう呼べって言われているもんで」

「自分は特別だというアピールですか」

「俺が特別というか礼知さんが特殊というか……。まあ、便利屋相手だから気楽ってこともあるんじゃないですか?」


 コミュニケーションを円滑にするための愛想笑いは、彼にはあまり意味がなさそうだ。


「社長直々の仕事だって聞いてたのに、とんだハズレくじだな」


 なんて顔をしかめているし。

 聞こえてるよ。

 期限付きみたいだし、いちいち突っかかるほどのことでもないからスルーするけど。


 それにしても、一週間後ってなにかあったっけ。

 さっぱりわからないので、ヒントを求めて谷さんに視線をやる。彼はうるさそうに俺をちょっと見上げた。


「言っておきますけど、俺には俺の仕事があるので、子守? 以外の時間はそちらに当てさせていただきます」

 彼はカバンを掲げてみせた。中にはパソコンが入っているのだろう。リモートワークってことらしい。

 なるほど、戦力外か。


「わかりました。ただ、家具はもうほとんど出してしまったんで……どこかいい場所あったかな?」


 オークリー君が来たときすぐ対応できる場所にいてほしいから、一階がいいだろう。ってことはやっぱりリビングかな。それかもう、いっそ玄関ホール。どちらにしても段ボールをテーブル代わりにしてもらうしかないけど。


 屋敷の玄関先でカギをごそごそやっていたら、「あ!」と声がした。

 思わず振り向いたものの、言いつけを思い出して慌てて目を閉じる。『目も合わせるな』というのは結構大変だよな。


「彗君! ここ数日こなかったからどうしたのかと思ったよ」


 悪気ゼロパーセントのオークリー君を無視するのも心苦しくて、俺はあいさつ代わりに片手をあげ、口の前で手をバッテンにしてしゃべれないことを示し、謝罪の代わりにぺこぺこ頭を下げた。

 ギュムっと目をつぶっているので、相手が理解したかはわからない。


「なにやってんの?」

 オークリー君は呆れてるっぽい。仕方ないんだよ。

 ともかくここは谷さんに任せよう。俺は退避あるのみだ。

 ごめんな、オークリー君は一ミリも悪くないのに、逃げるようなマネして!


「ちょっと、彗君!」

 扉越しにオークリー君の呼び声が聞こえた。それから、谷さんのちょっと上ずったような声も。


「はじめまして、谷と申します。しばらくオークリー様のお世話をさせていただきます!」

「は? 誰コレ、彗君!」


 ホントごめん。面倒な人を押し付ける羽目になって。





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