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ベータの俺でいいんすか  作者: 山端のは


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22/44

22 なんだこれ

本日二回更新(2回目)です

 チーフのわめく声がわんわん響いていた。

 だから言ったんだ! おまえには任せられん! 和倉様を怒らせたら、この会社なんてぺしゃんだぞ!


 言葉と同時にチーフが紙みたいにつぶれてヒラヒラと飛んでいき、代わりに礼知さんの姿が見えた。彼はすこし遠巻きに冷たい一瞥をくれただけで何も言わず背を向ける。


 礼知さん、俺、言いたいことがっ!

 礼知さん!

 必死に追いかけたけど、足が重くてちっとも彼に届かない。



「あやと、さん――」


 起き抜けのそれは、明瞭とは言い難かったはずなのに、ガチャッと扉が開いて礼知さんが飛び込んできた。


(けい)っ!」

「え、礼知さん?」


 疑問形になってしまったのは、なんか、彼がボロッとしてたからだ。髪型のせいかな。ぐしゃぐしゃーっと乱れていて、顔色も悪い。


 彼は、俺をのぞき込むように床に膝をつく。遠慮がちに腕を伸ばしかけ、かなり手前で引っ込めた。

 そのまま背を向けようとするので、俺は反射的に彼の上着をつかんだ。


「彗?」

「あ、すんません。なんか、どっか行っちゃうのかと思って」

「いて、いいの……?」

「え? はい。っていうかここ、オメガルームですか?」


 礼知さんの秘密の書斎、というコンセプトでつくったあの部屋だ。

 俺が寝かされていたのもソファーの上だった。

 礼知さんはどこかぼんやりした様子で天井を見上げた。


「ここの換気システムは強力だから。幸い、開放もしていなかったし」

「何か不備が?」


 ギョッとして身を起こしたつもりが、体が重くてうまくいかなかった。

「まだ休んでいて!」

 礼知さんが慌てた様子で俺を支えた。


「今、医者を呼んだから」

「そんな、大げさな。休めば治りますよ」


 とはいえ、ゆるく首を振っただけで、確かにちょっとクラクラした。


「ダメだよ、彗。覚えていない? 君は、私のフェロモンを受けて、倒れたんだ」

 そうだ、思い出した。

 オークリー君と会っていたと分かって、礼知さんが怒ったんだ。


「すまない、彗」

 礼知さんはその場にへたり込むようにして頭を下げた。俺はギョッとしてソファーから滑り降りた。


「やめてください! 悪いのは俺なのに!」

「いや、彗は何も悪くない。私が、自分を抑えられなくて」


 ああ、また髪をぐしゃっとしてしまっている。

 なんだかたまらなくなって、俺は礼知さんの髪に手を伸ばしてできるかぎり整えた。


「彗は、私が怖くないの?」

 それは礼知さんの方だろ。なんかものすごく心細そう。これ、本当に礼知さん?

 誰かと入れ替わったりしてないよな。


「ぜんぜん怖くないです。あ、これ失礼に当たります?」


 最後まで言い終える前に、礼知さんに抱き寄せられてしまった。フェロモンを出すって、アルファにとっても怖いことなのかな。とりあえず、背中をぽんぽんしてみる。

 せめてソファーに座って欲しいな、なんてそわっとしていると、彼が身を引いた。

 かと思えば、俺の両肩に手を置きなおし、ギラリと光る瞳で俺を覗き込んだ。


「悪かったとは思ってる。だけど、確認させてくれないか。あいつと何があったのか」

「はい。俺、トマトを」

「トマト?」

「あ、正確にはミニトマトです! ミニトマトを、食べさせてもらいました! 本当にすみません!」


 俺は、オークリー君とのやり取りを思い出した。

 あんな近い距離で礼知さんのオメガと話したんだ。お咎めは当然だ。


「……それだけ?」


 ところが礼知さんは拍子抜けしたように力を抜いた。


「それだけっちゃあそれだけなんですけど……。礼知さんにとっては大切な人でしょう。どんな些細なことでも嫌なんじゃないですか。だから、ちゃんと言わないとって――それに」

「まだなにかある?」

「いやその、指がちょっと当たっちゃったなあって」


 言ってて、やっぱり悪いことだと思ったので、俺は自分の口を指でこすった。

「ここ?」


 尋ねながら、礼知さんが俺のあごを持ち上げた。そして、やけに真剣なまなざしで俺のくちびるを親指で拭う。

 相手を間違ってない!? そういうことはオークリー君にするべきでは? いや、俺が感触を覚えていること自体が許せないってことかな。


「他には?」

「ありません」

 俺が答えると、彼はホッと息を吐いた。こわばっていた顔が急に緩む。

「なんだ、もっと最悪なことを想像しちゃったよ」


 それから、礼知さんは疲れた様子で俺の肩に頭を置いた。


「彗が無事で本当によかった……」


 さっきまでヒグマだったのに、今は雨に濡れそぼった子犬みたいだ。

 なんだこれ。

 さっきとは違った意味で、心臓がバクバクいっていた。




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