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ベータの俺でいいんすか  作者: 山端のは


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20/44

20 断るべきだったんだ

「写真は渡せた?」

 社長室に入るなりこの質問だ。

「は、はい! つつがなく」


 答えておいてなんだが、アレって問題なかったかな。かなり接近しちゃったような……。


「で、仲良く会話をしてきたと」

「あれは不可抗力というか、通り雨が来たせいでして」

「雨……、ああ、降ったね」

「雨宿りがてら、少々お話を、しました」


 なんなんだろうな、この異常なまでの後ろめたさは。

 だけどそんなに怒るなら、オークリー君にも接近禁止令出しておいて欲しい。

 なんて、言えるはずもないけれど。


「そうだ! 礼知さんも何かありますか? お屋敷の中のもので、思い入れのあるものとか」

 苦し紛れの話題転換だったけど、礼知さんは乗ってくれるようだ。わずかに首を傾げて考えるそぶりをした。


「うーん、私はないかな。もともとあまり何かに執着するということもなくて」

「そうなんですね」


 満たされているとそんなものなのかな。そんなとこもやっぱり、王子様っぽい。


「ただ、最近は少しわかる気がするんだ」

 礼知さんはそこでじっと俺を見た。俺は両手をあげて降参のポーズをとった。

「わかってますって。庭師さんとはこれ以上仲良くしません。いや、ほんと気を付けますって!」


 


 昨日のことがあったから、俺は屋敷につくと内側からそっとカギを閉めた。勝手口のほうは昨日閉ざして帰ったから大丈夫。これならオークリー君も入ってこられまい。


 いつものように空気の入れ替えからはじめて、その日は平穏に昼を迎えた。


 ところが、玄関先に置いてあったコンビニ弁当を取るため、ホールに降りたところで、玄関がガチャっと開いた。


「は?」

 と思わず声を上げたせいで、オークリー君とバッチリ目が合ってしまった。


「あ、いた」

「カギは!?」


 かけたよね。かけたはずだ。

 それとも気づかぬうちに外していたのだろうか。

 自分で自分が信じられなくなりかけたが、オークリー君はあっさり俺に合いカギを見せつけた。


 そっかあ。一緒に住む予定なら持っててもおかしくないかー。なんだろう、この敗北感。


「お昼食べた? 一緒にトマト食べない?」

 彼はホーローのコランダーを手に、こちらを覗き込んでいる。

 返事をせずにいたら、靴を脱ぎかけたので俺は慌てて逃避しかけていた意識を戻した。


「待ってください! せめて外で!」

「うん。いいけど?」


 しまったここは、断るべきだったんだ。

 コンビニ弁当を引っ提げて庭に出てから気がついた。


 ベンチに横並びで座ってしまってから、俺は頭を抱えた。

 ここはオークリー君と出会う前、よく昼食をとっていたベンチだ。座る人もいないと勝手に決めつけていた場所だった。

 礼知さん、すんません。俺、約束を守れませんでした。


 いや、まだだ。トマトを一個だけもらったら退散する。それならギリギリセーフだろ。

「ねえ聞いてる?」


 カッと目を開いた瞬間、くちびるに冷たいものを押し付けられてゾッとした。

 視界に入ったのは真っ赤に熟れたミニトマトだ。

「ほらこれ。いっぱい採れたから」


 まさか食べさせてもらうわけにもいかず、手を伸ばして受け取る。収穫したてのトマトは味が濃くて甘かった。


「……うまいっす」

「よかった。黄色いのも食べてみてよ」

 辞退する前に、今度は頬に押しあてられる。

「あの」


 文句を言おうとしたら頬のはフェイクで、右側からヒュッと口に直接放り込まれた。

 コイツ、俺をもてあそんでいやがる。

 二個目を食べながら口元を覆って、次のが来ないように首を振る。


「おいしいんです。けど、自分で食べられるんで」

 頬に押し付けられたやつ回収しようと思ったら、オークリー君が頓着せずに食べてしまった。別に間接キスってわけでもないけど、なんだか、ものすごく悪いことをしている気分になる。


「これでもう、同じ釜の飯を食った仲ってわけだね」

 オークリー君がニヤリとしながら言うので、思わず身震いした。


「未調理!」

「細かいことを言う」

「細かいことじゃないです。しっかり線引きしないとマズいんですって。前にも言いましたが、オークリー君には近づくなって雇い主から厳命されているんです。だから、もうこれきりです。トマト、ごちそうさまでした」


 言い捨てて逃げてしまおうとしたら、彼はぽつりと呟いた。


「みんなそうなんだよな」

 それがあまりに暗い声だったので、俺は思わず立ち止まってしまった。


「え?」

「オメガ保護法とか言ってもさ、結局みんなアルファを優先するんだ。つまんないよ」

「いや、違いますよ。少なくとも礼知さんの命令は、オークリー君を守るためですから」


 彼は俺の言葉が信用できなかったのか、せせら笑うようにハッと息を吐き出した。


「彗君それは、礼知のことをわかってないよ。そっか、何も知らないんだな」


 彼の言いように俺は一瞬ドキッとしてしまった。

 だが、すぐに当たり前だと言い聞かせる。俺はただの便利屋なんだから必要以上に雇い主のプライベートに踏み込んじゃいけないんだから。

 それでも、ひとこと言わせてもらいたかった。


「礼知さんは、オークリー君のこと、とても大事にしてらっしゃいますよ」


 ぽかんと、オークリー君が口をあける。

 俺はその隙に立ち上がり、ぺこりと頭を下げて屋敷に逃げ込んだ。


「トマト、ごちそうさまでした!」




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