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ベータの俺でいいんすか  作者: 山端のは


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18/44

18 不可抗力です

 

 庭師のオークリー君は、それから毎日やってくるようになった。

 ハッキリ言って予想外だ。


 俺はなるべく避けるようにしてるけど、結構な頻度で見つかってしまう。

 目録の写真を撮るために、良いロケーションを求めて夢中になっているうちに、彼のことをすっかり忘れてしまうのだ。


 今日も庭に出るまではコソコソしていたんだけど――。


「それはなにをしているの?」


 日よけ帽をかぶったオークリー君が、柄の長い草かきにもたれるようにして、こちらをのぞき込んでいた。

 いつのまに背後を取られたのか、まったく気が付かなかった。


「この家の品物の、目録を作っているところです」

「目録……」


 今は、動物の形をした一輪挿しを撮影中だ。コスモスがいい感じに咲いていたので、背景にしていた。

 若干の気まずさを隠しながら、俺は頷いた。

 完全に趣味の世界に入っていた。早く片付けなきゃと思ってるのに、気に入った物があると、こうしてすぐ気を取られてしまう。

 

「猫は見かけた?」

 オークリー君が、ひょいとしゃがみこんで隣に座るので驚いた。彼の視線は一輪挿しに向いている。


 華奢に見えるけど、俺より背も高くて存在感がある。なんでこの人の接近に気付かないかな、俺は。

 ひとまずへらりと笑ってごまかした。


「猫ですか? 庭に? それとも品物の話ですか?」

「置物。まんまるで、耳があるからかろうじて猫とわかるヤツ」

「ああ、あれかな。ちょっと待っててもらえます?」


 思い当たるものがひとつあったので、俺は屋敷内に一度戻りカバンからファイルを取り出した。

「これですか?」

 該当のページをめくって見せれば、オークリー君は無表情なりに、目元を緩ませたように見えた。

「そう。それ」


「実物はもう倉庫に送ってしまったんです」

 がっかりするかなと思ったんだけど、彼は小首をかしげて「いいよ」とあっさりした態度だ。


「言えばくれると思うから。それより、僕はそっちが欲しいな」

「この紙?」

「そのままじゃなくて、できればポストカードにしてほしいな。ちょうどそのサイズなんでしょ、それ」

「そうなんです!」


 浮き立つ気持ちが、バレなかっただろうか。誰も気にしていないと思っていた。俺のこだわりなんか。


 それは窓辺で撮った一枚だ。椅子の上で、まあるい猫が日向ぼっこをしている。レンズを通すことで、ただの置物が生き物のようにふるまう瞬間がある。俺はそういう写真が好きだった。


「すごく幸せそうだ」

「ですよね」


 思わずにっこりしてしまった。わかってもらえて嬉しいし、欲しいと言われて、自分が認められたように思えた。


 だけどこれ、いいのか?

 いいんだよな?


 彼は、この屋敷に出入りが許されているわけだし、なにより礼知さんのお相手だ。写真どころか実物だって、望めばもらえるみたいだし。

 それでも俺は即決できなかった。


「一応、あや――和倉様に確認してみます」

「あなたが撮った写真でしょう?」

「それでも、俺の所有物じゃないので」


 問題は、庭師に近づくなと命じられていることだ。

 この状況はどことなく後ろめたい。


 だから俺は社長室でカギを返すとき、ついでのようにポストカードを取り出した。なんてことない話です。雑談ですよーという雰囲気を装った。我ながらずるい態度だと思う。


「この写真、人にあげてもいいですか?」

「うん? 構わないよ。誰にあげるの?」

「だ」


 ダメだった。興味を持たれてしまった。

 いや、興味というより確認かな。情報の流出先のリスク管理って奴だ。じゃあごまかせない。


「庭師さんです」

「庭師、に、また会ったの?」

 声が急に低くなった。怖い。


「不可抗力ですよ! そりゃ、同じお屋敷で働いてるんですもん会いますよ!」

 言ってはみたものの、礼知さんの追及は厳しい。


「そして着々と交流を深めていると」

「深めてません! あいさつ程度ですよ」

「本当に? 彗のあいさつ程度は怪しいからな。すぐに仲良くなっちゃうだろ」

「そんなことないですよ! それだって、渡したら俺すぐ引っ込みますから。秒ですよ!」


 それでもまだ、礼知さんは疑いの目で俺を見ていた。



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