18 不可抗力です
庭師のオークリー君は、それから毎日やってくるようになった。
ハッキリ言って予想外だ。
俺はなるべく避けるようにしてるけど、結構な頻度で見つかってしまう。
目録の写真を撮るために、良いロケーションを求めて夢中になっているうちに、彼のことをすっかり忘れてしまうのだ。
今日も庭に出るまではコソコソしていたんだけど――。
「それはなにをしているの?」
日よけ帽をかぶったオークリー君が、柄の長い草かきにもたれるようにして、こちらをのぞき込んでいた。
いつのまに背後を取られたのか、まったく気が付かなかった。
「この家の品物の、目録を作っているところです」
「目録……」
今は、動物の形をした一輪挿しを撮影中だ。コスモスがいい感じに咲いていたので、背景にしていた。
若干の気まずさを隠しながら、俺は頷いた。
完全に趣味の世界に入っていた。早く片付けなきゃと思ってるのに、気に入った物があると、こうしてすぐ気を取られてしまう。
「猫は見かけた?」
オークリー君が、ひょいとしゃがみこんで隣に座るので驚いた。彼の視線は一輪挿しに向いている。
華奢に見えるけど、俺より背も高くて存在感がある。なんでこの人の接近に気付かないかな、俺は。
ひとまずへらりと笑ってごまかした。
「猫ですか? 庭に? それとも品物の話ですか?」
「置物。まんまるで、耳があるからかろうじて猫とわかるヤツ」
「ああ、あれかな。ちょっと待っててもらえます?」
思い当たるものがひとつあったので、俺は屋敷内に一度戻りカバンからファイルを取り出した。
「これですか?」
該当のページをめくって見せれば、オークリー君は無表情なりに、目元を緩ませたように見えた。
「そう。それ」
「実物はもう倉庫に送ってしまったんです」
がっかりするかなと思ったんだけど、彼は小首をかしげて「いいよ」とあっさりした態度だ。
「言えばくれると思うから。それより、僕はそっちが欲しいな」
「この紙?」
「そのままじゃなくて、できればポストカードにしてほしいな。ちょうどそのサイズなんでしょ、それ」
「そうなんです!」
浮き立つ気持ちが、バレなかっただろうか。誰も気にしていないと思っていた。俺のこだわりなんか。
それは窓辺で撮った一枚だ。椅子の上で、まあるい猫が日向ぼっこをしている。レンズを通すことで、ただの置物が生き物のようにふるまう瞬間がある。俺はそういう写真が好きだった。
「すごく幸せそうだ」
「ですよね」
思わずにっこりしてしまった。わかってもらえて嬉しいし、欲しいと言われて、自分が認められたように思えた。
だけどこれ、いいのか?
いいんだよな?
彼は、この屋敷に出入りが許されているわけだし、なにより礼知さんのお相手だ。写真どころか実物だって、望めばもらえるみたいだし。
それでも俺は即決できなかった。
「一応、あや――和倉様に確認してみます」
「あなたが撮った写真でしょう?」
「それでも、俺の所有物じゃないので」
問題は、庭師に近づくなと命じられていることだ。
この状況はどことなく後ろめたい。
だから俺は社長室でカギを返すとき、ついでのようにポストカードを取り出した。なんてことない話です。雑談ですよーという雰囲気を装った。我ながらずるい態度だと思う。
「この写真、人にあげてもいいですか?」
「うん? 構わないよ。誰にあげるの?」
「だ」
ダメだった。興味を持たれてしまった。
いや、興味というより確認かな。情報の流出先のリスク管理って奴だ。じゃあごまかせない。
「庭師さんです」
「庭師、に、また会ったの?」
声が急に低くなった。怖い。
「不可抗力ですよ! そりゃ、同じお屋敷で働いてるんですもん会いますよ!」
言ってはみたものの、礼知さんの追及は厳しい。
「そして着々と交流を深めていると」
「深めてません! あいさつ程度ですよ」
「本当に? 彗のあいさつ程度は怪しいからな。すぐに仲良くなっちゃうだろ」
「そんなことないですよ! それだって、渡したら俺すぐ引っ込みますから。秒ですよ!」
それでもまだ、礼知さんは疑いの目で俺を見ていた。




