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三話『漆』


 あの日から度々宿に先生が来るようになった。街は相変わらず重たい雰囲気に包まれている。それも仕方ない。昨晩も赤い月が上り街はウルフによって荒らされてしまったのだから。


 街は重い空気に包まれていた。武器を捨てるもの。泣き叫ぶもの。自暴自棄になるもの。街は恐怖に呑まれていた。

 そんな恐怖の中、『死人が蘇る』という噂が流れた。


「先生はどう思いますか?」


「……」


 てっきり「そんなんあるわけないやろ! あほが!」とでも返されると思ったが先生は黙りこくったまま俯いてしまった。そして重く口を開く。


「……うちに来ないか」


「え?」


「サクリファイスに入らんか? って聞いたんよ」


「えっと……」


「戦い方もしっかり教えたる」

 

 後一歩、勇気に欠ける。


「世界を知りたいなら勇気を出さな」


「……勇気」


 私はローブをぎゅっと握りしめた。あの日のような光景を、あの日のような悲しみを、私はもう見たくなかった。でもこのまま家の中に閉じこもっているわけにはいかない。街が荒らされた。ここが安全とは言えなくなってしまった。


「はいります」


「よし! そんじゃ」


 先生は嬉しそうに笑ってそして告げる。


「これから入団テストをはじめます」


「こ、これからですか」


「大丈夫、大丈夫。アミならできる」


 そう言われても不安でいっぱいだ。


「まずは自分の相棒を見つけないとな」


「相棒?」


 そして連れて行かれた先は住宅地ギルド、トリックオアトリートのお家。


「なんだかんだでこういうのはここが一番やからな」


 そう言ってドアを叩けばいつもの少女が出迎える。しかし今日はあまり元気がないように見える。


「何の用?」


「今日は馬を探しにな」


 トナカイの表情がさらに曇った。


「馬かぁ。昨日の今日ですぐ使える馬はそういないよ。傷は治したけどみんな怯えちゃって」


「そうか」


「まぁ、一匹だけ使えないことはない馬があるけど」


 そう言って隣の馬小屋から一際大きな黒い馬を連れてきた。


「これ、バケの馬やん」


 先生はそう言って何かを察したように口をつぐんだ。


「ちょっと足は遅いけど、どの馬よりも強くて優しい子だよ。化けくんは、ちょっと疲れちゃったみたいだから」


「そうか」


「化けくんが元気になるまでの間なら貸してあげる」


「わかった。感謝する」


「あ、ありがとうございます」


「名前はブラック。悪いけど、夜はここに戻してくれると助かるかも」


「わかった。無理言って悪いな」


「レンタル料は適当でいいよ」


「オーケー」


「強いて言うならお肉が欲しいなぁ。岩塩も。極上のステーキを食べたらきっとみんな元気になると思うの」


「わかったわかった。極上のステーキ肉持ってきたる。そしたらお前も元気出せよ」


 なんかそんなテンションでいられたらこっちの調子も狂うわ、と先生が言うとトナカイは静かに笑う。


「ありがとう」


 そうして私と先生はブラック、と名付けられた馬を借りて街の外へ出た。




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