第九十一話 エルフの覚醒
第五章 過去の遺物
第九十一話 エルフの覚醒
魔法人形の男が振るうナイフと、風を纏ったカリアの持つ剣が何度もぶつかる。カリアは相手の動きを見切り始めたようで、男ばかりが攻撃を受けるようになってきた。だが、男は攻撃を受けてもダメージが入らない。
男の攻撃はとても単調だ。身体能力が高い代わりに、それに頼った戦い方をしている。武器を何度も交えて、彼女は動きの癖を見抜いていた。
「幼稚な玩具だな」
隙を狙った男の反撃が行われるが、それは彼女がわざと作った隙だ。初めから読んでいた彼女は、反撃を易々と躱して横へ回り込む。
そして、男の体へと攻撃を加えた。
「厄介過ぎる」
男の頑丈な体に、カリアは攻めあぐねていた。男への攻撃は入るのに、全くダメージが入らないのだ。彼女の最大の攻撃力を誇る、炎付与での攻撃も防がれている。打つ手がないといった状態だった。
「まだまだ行くぞ!」
それでも、彼女は戦い続ける。俺達が動けない状態なので、いま彼女以外の者が狙われるのは不味い。他の者が狙われないように、彼女が男の気を惹いておかなければならないのだ。
「炎付与」
後ろへ回り込んだ隙に、炎付与に切り替える。彼女の持つ剣が、炎を纏った。
「はあっ!!」
気合の籠った一撃が、男の背中を捉える。男は少しよろめき、体勢を崩す。その間に、彼女は再び剣を構え直していた。
「三連撃!」
彼女の放った三連撃に慌てて反応した男が、持っていたナイフを構える。体勢を崩していたということもあり、対応しきれなかったようだ。ナイフを持っていた男の腕が、彼女の三連撃を受けて大きく跳ね上がる。
「連撃!」
追撃を加えていくが、これは左腕を盾のようにしてしっかりと受け止めた。だが、彼女の攻撃はまだ終わっていない。
「これでどうだ!!」
返す一撃で男を攻撃する。それに対して、男は後退して剣を躱した。
「排除する」
「くっ!?」
蹴りが放たれ、さらに追撃しようとしていたカリアの剣を弾く。彼女は体勢を立て直すことを優先して、一度男から距離を取った。
今のはこの戦いの中で、初めて見せた行動だ。男は今まで、一度もカリアの攻撃を躱そうとはしなかった。全て受け止めるか弾くかしていたのだ。
今までも何度かスキルは使っていた。連撃も三連撃も、男は全て防いでいる。何故最後の一撃は回避したのか…。
「炎が先ほどよりも強くなっていませんか?」
フランの言葉を聞いて、彼女の持つ剣を見る。確かに、先ほどよりも大きくなっているように見えた。俺の感じていた違和感はこれだったのだ。今までは気付けなかったが、少しずつ彼女の魔法が強くなっている。
「確かに…。魔力が増大しているのを感じる」
カリア自身も、フランに言われるまで気付かなかったようだ。そして、魔法が強化されているのは魔力が増大しているのが原因らしい。
「魔力が…」
彼女が大きく息を吸うと、さらに魔力が増大した。
「これが限界か」
戦士系の職業だったので、彼女の持つ魔力はそれほど多くなかった。しかし今、彼女の魔力は上級職の魔術師ほどであった。
「懐かしい空気だ」
本当に懐かしそうな表情で、彼女はそう呟く。男はカリアの魔力が突然増えたことに驚いているのだろうか?
ナイフを構えたまま、一切動こうとしない。
「頭痛が少し治まった」
彼女の魔力が上昇する度に、俺の頭痛がマシになっていくのを感じる。
「極光炎付与」
彼女の剣に、白く揺らめく炎が纏う。今まで一度も見たことのない魔法だった。彼女自身も使うのは初めてなようで、剣に纏う炎を安定させるのに手間取っている。
だがそれだけの隙があるのにも関わらず、男は白い炎を見つめるばかりでその場から動かない。
「行くぞ!!」
炎を安定させたカリアが、男へ向けて剣を振るう。そして、彼女の剣はあっさりと男の体を切り裂いた。今まで何度も彼女の剣を跳ね返してきた体を、まるで柔らかいもののように滑らかに切り裂く。
男も何故か、分断された頭部が地面に落ちるまで、ただ自分へ向かって振るわれたその剣を見つめているだけだった。
横たわる男の体が、完全に動きを止める。頭部が切り離されたことで、機能が停止したのだ。
「壁が開きました」
サーシャの近くにあった壁がスライドし、出口を覗かせる。
「大丈夫か?」
「…はい」
カリアに尋ねられたサーシャは、少し辛そうだが自力で立ち上がる。頭痛が少し治まったことにより、俺達も立ち上がることができた。そのまま自力で出口へと向かう。
出口を進んだ先には、小さな小部屋があった。そこには沢山の本が並べられ、簡素な研究施設のような作りである。
「全く読めませんね」
「古代文字とも少し違う…」
「これは何の文字でしょうか?」
早速本に群がっていった研究者達だが、見たこともない文字に悪戦苦闘していた。遥か昔に使われていたとされる古代文字すら読める彼等だが、本に書かれた文字は読めないらしい。恐らく、何処かの種族のみが使っていた文字なのだろう。
「あまり無暗に触るなよ」
彼等はさらに部屋を物色し、カリアに釘を刺されていた。先ほど罠に掛かったばかりだというのに、探求心が止まらない様子だ。
先ほどの部屋以上に、この部屋は空気中に含まれる魔力が少ない。そのため、時間が経てば頭痛は完全に治まった。
「階段がありますよ」
先の様子を見に行っていたフランが言う。階段は上へと続いており、研究者達が調べ終わるのを待ってから上る。
「疲れました…」
研究者の一人が呟く。他の研究者もそれに続いて疲労を訴える。まだ先が続いているようなので、一度階段で休憩を挿むことにした。
「私…マシだった」
「私は何も感じなかったな。反対に、魔力が増大して強くなったくらいだしな」
休憩中、俺達は先ほどの頭痛について話していた。ミリアも頭痛は感じていたらしいが、動けない程ではなかったようだ。原因は空気中に含まれる魔力だろうが、何故それが頭痛に繋がるのかまでは分からない。
だがミリアの頭痛がマシだったとなると、彼女達がエルフや妖精だからと考えるのが妥当だろう。種族的な問題で、俺達には空気中の魔力が合わなかったということだ。
「あのような魔法、私は知りませんよ!」
「私もです! あれだけの魔法ならば、記録に残っててもおかしくないのに!!」
「魔物でも聞いたことありませんね」
研究者達はカリアの使った魔法について話し合っていた。彼女自身にも何の魔法かは分からないようだ。だが、魔力を吸収した際に頭の中に浮かんできたらしい。
エルフ特有の魔法の可能性も考えたが、里にいる者達は全員魔術師系の職業だ。魔力が増大した今のカリア程の魔力を持つ者は何人もいるが、あのような魔法を使える者はいない。
あれほどの魔法が使えるのならば、自力で魔王軍幹部のスラウを倒していたはずだ。
休憩を終え、再び階段を上り始める。五分ほど階段を上ったところで、開けた場所へ出た。魔物の気配がないので、恐らく洞窟の中だ。
遺跡とは明らかに別の場所である。やはり何らかの罠を作動させたことにより、俺達は何処かへ移動させられていたらしい。
洞窟はそれほど大きくなかったようで、すぐに抜けることができた。抜けた先には、辺り一面に木々が広がっている。
「ここは何処かの林なのでしょうか?」
「ここは…」
研究者の疑問にカリアは首を横に振る。彼女は周囲を一度見渡し、ここが何処か気付いたようだ。そして、俺もここが何処なのかは何となく分かった。
馴染みのある魔力を感じる。ここは恐らく…。
「もしかして、神秘の森ですか?」
サーシャもこの魔力を感じていたらしい。俺の横に移動して来た彼女が、そう俺に尋ねた。




